第二章
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「けれどね」
「こうしたものもでしょ」
「いいでしょ」
「じゃあね」
「カウンターに女だけで座ってね」
「大人の夜の楽しみを味わいましょう」
こう話してだ、そしてだった。
桜は同僚達と共にだった、カウンターの席に並んで座ってだった。
そこでそれぞれカクテルを頼んで飲んだ、桜が頼んだのはブラッディマリーだった。彼女はその赤いカクテルを飲みつつだ。
微笑んでだ、同僚達に言った。
「確かにね」
「美味しいでしょ」
「よく出来てるでしょ」
「ええ、お店の雰囲気もいいけれど」
それに加えてというのだ。
「貴女達の言う通りね」
「肝心のカクテルの味もね」
「それもいいのよ」
「これで値段もいいし」
「本当にいいお店なのよ」
「そうね」
桜は同僚達の言葉に頷いた、それはその通りだとだ。
しかしだ、ここでだった。
桜はカウンターの中で黙々とカクテルを作っているバーテンダーを見た、背は一八〇近く黒い髪を短く切って立たせている。顔立ちは彫があり黒い目の光が鋭く細い眉は一直線で口元は引き締まっている。バーテンダーの制服である白いブラウスと黒のベストとズボン、蝶ネクタイは似合っている。だが笑顔はない。
その彼にだ、桜は今度は。マティーニを注文したが。
「わかりました」
こう返すだけだった、そして作ってだった。
「どうぞ」
こう言うだけだった、その彼を見てだった。
店を出てからだ、桜は同僚達に尋ねた。
「あの、いいお店だけれど」
「バーテンさんがっていうのね」
「あの人が」
「ちょっとね」
こう言うのだった、駅に向かって歩きながら。その駅はもう目の前にある。
「無愛想じゃない?」
「ええ、そうね」
「無愛想なのは確かね」
「笑わないしね」
「口数も少なくて」
同僚達もそのことは認める。
「黙々と仕事して」
「カクテル作って出してね」
「それだけなのよね、あのお店のバーテンさん」
「本当にそれだけで」
「それがね」
どうにもと言うのだ。
「私的にはね」
「サービスが悪い」
「そう言うのね」
「態度は悪くないけれど」
それでもというのだ。
「無愛想なのはあね」
「それが、なのね」
「どうにも」
「そう言うのね」
「そうなの、だからね」
それで、というのだ。
「そのことが気になったけれど」
「それでもいいお店でしょ」
「お店自体は」
「ええ、雰囲気も味も値段もよくて」
そして、というのだ。店のこと自体は。
「いいお店ね。ただね」
「バーテンさんね」
「あの人ね」
「あの人ね、腕はいいと思うけれど」
それでもというのだ。
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