第五章
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「それだけのことを迷わずにされた」
「そのことはですか」
「お見事です、まさに人のものです」
「人のですか」
「人として正しい行いです」
「私がしたことが」
「人は誰かを助けられてこそだと聞いています」
住職はこれまで以上に深い声で伊達に答えた。
「その為に何かが出来ること、それも迷わずに出来れば」
「それこそがですか」
「人としての正しい行いとです」
「人を助けてこそですね」
「幾ら修行を積もうともです」
仏教のそれをだ、深く高く積もうともというのだ。
「人を助けぬ者は人ではない」
「ではその修行は」
「自己満足でしかないとです」
「そう言われていますか」
「はい、ですから」
「私のしたことは」
「人の行いです」
それに他ならないというのだ。
「人の徳を積まれています」
「実は私はです」
住職の言葉を受けてだ、伊達は自分がこれまで思っていたことを話した。
「これまで何か足りないと思っていました」
「仏門の修行にも励まれていたそうですね」
「はい」
「しかしそれでもだったのですね」
「足りないものを感じていました」
実際にというのだ。
「どうにも」
「修行をされていても」
「そうでした、しかし」
「今はですね」
「満ち足りた気持ちです」
「寄付をされて」
「そうです」
あの孤児院に寄付をした、つまり人を助けたことでというのだ。
「そうなりました」
「それです、やはり」
「幾ら自分を高めてもですね」
「人を助けることをせず思いやる気持ちもなければ」
「人としてですね」
「駄目なのです」
住職はこう伊達に話した。
「人は」
「そういうことなのですね」
「そうです、しかしです」
「しかしですか」
「伊達さんはそのことをおわかりになられました」
だからというのだ。
「このことは非常にいいことです、ですから」
「これからもですね」
「人をお助け下さい」
「自分自身が修行をするだけでなく」
「そうされて下さい」
「わかりました」
伊達は住職の言葉に確かな言葉に頷いた。
「それではこれからもそうさせてもらいます」
「是非共」
この時から伊達は寄付やボランティアにも積極的に取り組む様になった、そして彼は誰に聞かれてもこのことを誇らずにこう言うだけだった。
「人として当然のことですから」
だからだと言ってだ、そうした行いを止めなかった。そしてあくまで人として生きていった。それが彼であった。
心を今 完
2015・6・18
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