第六章
[8]前話
「普段はね、けれどね」
「夜はね」
「メイクもして着替えて」
「そしてなの」
「旦那さんとそうしたら」
「三人目が出来たの」
実際にというのだ。
「この通りね」
「子供欲しかったの?」
友人の一人が美紀に問うた。
「それで?」
「そこまでは考えてなかったわ」
「ただ旦那さんが色気がないって話してたから?」
「それで考えてアドバイス受けてね」
「そうした格好になっただけで」
「夜抱かれたかったのもあるわ」
こうしたこともだ、美紀は言った。
「女としてね」
「やっぱりね」
「結婚しても女は女だしね」
「相手に抱かれてないとね」
「夜もね」
「そうした時間も欲しかったこともあったけれど」
それでもというのだ。
「三人目出来たのは計算外よ」
「そうなのね」
「そっちは」
「本当にね、けれど出来たら」
美紀はにこりと笑って友人達に話した。
「この子も産んでね」
「そして育てる」
「そうしたいのね」
「そうするわ、この子もね」
自分のその、まだ大きくなっていない腹を摩っての言葉だった。その顔はメイクはしていないが友人達が見ても色気があった。それは母親の色気だった。美紀は自然とそうした色気を身に付けていた。友人達はその顔を見て彼女に言った。
「いいじゃないその顔」
「ぐっとくるわよ」
「その顔が一番よ」
「色気あるわよ」
「そうかしら、メイクしてないのに」
今は、と返す美紀だった。
「そんなに?」
「ええ、そうよ」
「お母さんとしてね」
「美紀いい色気出してるわよ」
「とてもね」
そのあだっぽい友人も言う、そして最後にこう言った。
「メイクや服で色気を出せるけれど」
「中からも出せるってことね」
「そういうことね」
こう言うのだった、その満ち足りてそれでいて母親という女を出している美紀に。
色気がない 完
2015・9・22
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