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噂につられ
1部分:第一章
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のに」
「逃げればいいじゃない」
 朝香は軽い調子で彼女に言った。
「会ったら」
「無理よ」
 玲子は顔を顰めさせてそれを否定した。
「だってあれでしょ?」
「あれって?」
「あいつ百メートルを三秒で走るのよね」
「ええ」
 こうした都市伝説ではつきものであるが相手は異常に動きが速い。バイクよりも速い速度で追い掛けてくるという話もざらなのだ。この時もそうだった。
「絶対追いつかれるわよ。そうして」
「頭からバリバリとね」
「冗談じゃないわよ」
 玲子はその整った口を尖らせて言った。
「まだ食べられたくないわよ」
「あたしはずっとよ、そんなの」
 朝香もまた口を尖らせて述べた。
「食べられたい人間なんてそもそもいないわよ」
「そりゃそうだ」
 賢治は朝香のその言葉を聞いて思わず笑った。
「僕だってそうだし」
「そうよね。けれど出るんだ」
「そこよ」
 朝香は玲子の言葉に突っ込みを入れた。
「出るのよ。見たいような見たくないような」
「ちょっと朝香」
 玲子は今の朝香の言葉に顔を露骨に曇らせてきた。
「あんた今何て言ったのよ」
「だから見たいような見たくないようなって」
 朝香はしれっとして答える。
(そう言ったんだけれど」
「ちょっと、冗談じゃないわよ」
 玲子はまた口を尖らせた。それでまた言うのだった。

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