第三章
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彼等は数日後長安から消えていた、そして。
王莽は周りに人が少なくなってもだ、憂いは消えずに飲み続けた。最早飲めば飲む程憂いが深まるがその憂いから逃れようとして飲んでいる有様だった。
やがて長安にだ、赤眉の軍勢来てだった。
遂に長安に入った、王莽は宮廷が彼から見て賊軍の手に落ちてもまだ飲んでいた。
その彼にだ、僅かに残っていた者達が言った。
「あの、帝」
「賊が宮廷にまで来ました」
「最早どうにもなりませぬ」
「ですから」
「酒を」
これが王莽の返事だった。
「酒を持って来るのだ。なくなった」
「まだ酒ですか」
「この有様で」
「まだ飲まれるのですか」
「そう言われますか」
「憂いが消えぬ」
机の上に伏したままの言葉だった。
「だからだ。酒をもて」
「左様ですか」
「では酒を持って来ます」
「そうしますので」
「お覚悟を」
こう言うだけだった、最早彼等も。
彼等は確かに酒を持って来た、そしてそれを王莽の前に差し出して深々と一礼してからだった。そのうえで。
彼等も何処かへと去った、その彼等と入れ替わりにだった。
眉を赤く染めた兵達が王莽の前に来た、王莽は酒に濁りきった目で彼等に問うた。
「酒か」
「酒ではない、剣だ」
「簒奪者王莽、覚悟するのだ」
これが彼等の返事だった。既にその手には剣や戟がある。
「前帝を弑逆し帝位を簒奪した罪を裁く」
「その首を差し出すのだ」
「酒を」
王莽は彼等にそう言われてもだ、それでもだった。
酒を飲み続けた、その彼に。
一人の男が剣を振り下ろした、王莽はまだ飲んでいる途中だがその首が叩き落とされてだった。首は床に落ちて血を噴き出しながら転がった。
その虚ろな、血に塗れた首を見てだ。兵達は言った。
「完全に酒に溺れていたな」
「我等の挙兵に何も出来なくなってか」
「それで酒に溺れてか」
「こうした有様か」
「無様な話だ」
「全くだな」
こう言うのだった。王莽のその何も見ていない虚ろな目と杯を持ったままで動かなくなった首のない身体を見ながら。
王莽の首は町に晒され骸は切り刻まれた、謀反人とみなされた者としては相応しい最期を遂げたと言えた。
だが都を逃れていたかつて彼に仕えていた者達は口々に言っていた。
「あれだけ酒に溺れられては」
「政に失敗し乱が起こったにしても」
「それを収められずとも」
「酒に溺れるだけでは」
「どうしようもない」
「滅びるも道理」
「それだけの方であったということか」
こう言うのだった、王莽のいなくなった都を後にして。
王莽は今もすこぶる評判が悪い、簒奪者とされておりその最期の酒に溺れていた時の姿も伝わっている。酒は百薬の長と言いながら。
彼はそう言って飲んで
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