第一章
[2]次話
主は誰か
明智光秀は常に守っている母にだ、流浪の時にふと言われた。
「今度はどの家に行くんだい?」
「はい、朝倉家にです」
明智は母にすぐに答えた。
「あの家にです」
「朝倉家なんだね」
「今越前に向かっています」
その朝倉家の領地である国にというのだ。
「そうしています」
「そうかい、今度のご主君はいい人だったらいいね」
「はい」
まさにとだ、明智は母にまた答えた。
「それがしもそう思っています」
「斎藤家は駄目だったね」
「道三様はよかったのですが」
斎藤道三、彼はというのだ。
「確かに主を追い出した悪人と言われていますが」
「それでもだね」
「立派な方でした」
主としてはというのだ。
「真に」
「だから御前も仕えていたね」
「はい、この方ならと思い」
自分が仕えるに足る、仕えても充分に使ってくれて見合うだけのものも出してくれると思ったのである。その様に。
「お仕えしていて」
「あの頃はだね」
「実際にです」
「よく使ってもらっていたね」
「そして頂けるものもです」
「多かったね」
「まことに、ですが」
「道三様はね」
「お倒れになりました」
嫡子斎藤義龍との争いでだ、彼は討ち死にを遂げたのだ。
「残念なことに」
「それで義龍様には」
「その時道三様に織田家に仕えよと言われたのですが」
明智は道三の陣にいた、そこで他ならぬ道三自身に落ち延びる様に言われてそうつげられたのである。
「しかし」
「織田様はだね」
「織田信長殿はどうも」
首を傾げさせての言葉だ。
「よくない噂が多く」
「うつけ殿と評判だね」
「奇矯な振る舞いも多いと聞きましたので」
「だからだね」
「義龍様にお仕えせずに」
「朝倉様のところに行くんだね」
「左様です」
「そうなんだね、わかったよ」
母は微笑んで我が子の言葉に頷いた。
「越前まで行こうね」
「さすれば」
こうしてだった、明智は越前に行きそこで朝倉義景に仕えることになった。だが彼は義景だけでなく朝倉家の全てを見てから己に仕えている従者に囁いた。
「朝倉家は今はよい」
「今は、ですか」
「朝倉宗滴様がおられるからな」
長きに渡って朝倉家を支えている彼がというのだ。
「あの方がおられる限りは大丈夫だ」
「ですがもう宗滴様は」
「ご高齢だ」
このことをだ、明智自身も言った。
「だからだ」
「宗滴様がおられなくなれば」
「義景様はだ」
主である彼はというと。
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