09.僕はキレた
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『お姉ちゃん、なんとかがんばって空母棲鬼だけでも止めるから。その隙に逃げてね』
またか。
『ごめんねシュウくん。でも最期にひと目だけでも会えてうれしかった。来てくれてありがとう』
また僕を困らせるのか。
『シュウくん。……大好きだよ』
周囲の音が完全に収束して消えた。フラフラの姉ちゃんが力なく立ち上がり、空母棲鬼に向かって、痙攣しているボロボロの砲塔を向けたのが見えた。そして一瞬、姉ちゃんは僕に微笑みかけた。笑顔だけど、神社で見せていた、ベランダで見せていた、あの日消える寸前に見せていた、一瞬で崩れ去りそうな脆い笑顔だった。
どれだけ僕を困らせれば気が済むんだ姉ちゃん。
僕はまったくの無音と化した世界で、無線機を通さず、遥か遠くにいる姉ちゃんに向かって、あらん限りの怒りを込めて怒鳴った。
「また僕を困らせるつもりなのか!! 姉ちゃん!!!」
岸田と艦娘たち、そして深海棲艦も僕を振り返った。僕の怒号は姉ちゃんにまで届いたようで、姉ちゃんも僕が怒鳴った瞬間にビクッと身体をこわばらせた。僕の肩口にいた妖精さんが自分の耳を塞いでいるのが見え、もう一人の妖精さんが乗るカ号が、僕の声でコロンと転がった。そのままの状態で、僕と姉ちゃんのそばに戻った世界は時を止め、僕の声以外の一切の音が消えた。砲撃も止んだ。みんなの動きも止まった。
『シュウ……くん……?』
「あの時みたいに勝手なこと言って……また僕の前から勝手に消えるつもりか!! あの時みたいに、また僕を置いていくのか!! 僕たちは姉ちゃんを助けるためにここまで来たのに……僕は姉ちゃんを助けるためにここまで来たのにッ!!」
『でもシュウくん……』
「うるさいッ!! 今度は絶対一緒に帰るッ!! いなくなるなんて許さないからな!! 頭なでてもらうッ!!! ウザいって思われても隣にずっといてもらうッ!! 分かったら……」
言ってしまえ。もう知らん。姉ちゃんが困っても知らん。これは今まで散々僕を困らせてきた姉ちゃんへのお仕置きだッ。僕の切り札を喰らえッ!
「黙って指輪を受け取れ!! 僕とケッコンしろぉぉぉぉおオオオオ!!!」
無音の世界に、僕の声だけが響いた。僕は姉ちゃんを睨みつける。姉ちゃんは目を丸くして顔が真っ赤っ赤だ。金剛さんがニヤーっとほくそ笑み、キソーさんがプッと吹き出した。加賀さんが呆れて頭を抱え、岸田が痛恨の血涙を流す。ゴーヤが鼻の下を伸ばし、妖精さんたちがほっぺたを赤くして照れていた。そして、球磨自身はジト目でこっちを見ていたが、アホ毛が恥ずかしそうにグニグニと動いていた。
その瞬間、確かに世界は停止していた。
「……こんな時に公開プロポーズは勘弁して欲しかったクマ」
球磨のこの一言で、再び
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