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大海原でつかまえて
09.僕はキレた
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「んだとッ?!!」

 直後、金剛さんが魚雷とてれたびーずの間に割って入った。金剛さんを中心に水柱が上がり、てれたびーずは難を逃れた形となったが……

「金剛さん!!」

 金剛さんの身体が宙に浮き、そして水面に叩きつけられた。艤装が損傷し、砲塔がガクガクと痙攣している。金剛さんはゆっくりと起き上がり、額から血を流しながら、笑顔でこっちを見た。

「岸田……シュウくん、無事デスカ?」
「う、うん……」
「……おーけい。旗艦が無事でよかったデス」

 金剛さんの笑顔が本当に辛そうだ。結構酷い損傷を受けたのかもしれない。ヤバい。5人の艦娘のうち4人が立て続けに傷を負った。一方の相手は無傷。一矢すら報えてない。まったく歯が立たない。マズい。

「なめるなクマぁああ!!」

 ただ一人、無傷の状態の球磨が一人で砲撃を続けるが、火力が足りず、レ級たちにダメージを与えるに至らない。レ級からの執拗な砲撃が続く。全員が必死に回避運動を取っているが、それがいつまで続くかわからない……マズい……マズい!

『シュウくん……聞こえる? お姉ちゃんだよ』

 無線機から、姉ちゃんの声が聞こえた。その直後、周囲の轟音も、球磨の咆哮も、岸田の怒号も何もかもが遠くに聞こえ、僕の耳に届く音は、無線機からの姉ちゃんの声だけになった。

「姉ちゃん! 待ってて今助けるから!!」
『シュウくん……みんなも……引き返して』
「え……姉ちゃん今なんて……」

 周囲の音がさらに聞こえにくくなった。岸田が何かを叫び、加賀さんがそれに何か受け答えをしているのは分かるが、二人の声があまりに小さくて聞き取れない。キソーさんが何か遠いところで爆発に巻き込まれているようだ。僕は姉ちゃんを見た。相変わらず倒れたままだったが、姉ちゃんは必死に上体を起こし、こっちを見ていた。その姉ちゃんと、僕は目があった。

 この瞬間をどれだけ待ちわびただろう。どれだけ願ったことだろう。やっと会えた。やっと姉ちゃんと見つめ合えた。あの日理不尽に姉ちゃんを奪われてから今日まで、どれだけこの瞬間を待ち焦がれたことだろう。世界が僕と姉ちゃんから遠く離れ、周囲には僕と姉ちゃんの二人だけしかいなくなった。

 姉ちゃんに会えた。それなのに、僕と姉ちゃんの間に笑顔はなかった。喜びもなかった。

『シュウくん、引き返して。退却して』
「……なんで?」
『このままじゃみんなが……今なら全速力で退却すれば大丈夫。お姉ちゃんがなんとか食い止める。だからこのまま退却して』

 なぜだか分からないが、遥か遠くにいるはずの金剛さんが、こっちの様子に気付いたのが見えた。その後金剛さんは姉ちゃんに向かって何かを叫んでいたが、距離が遠く声が小さすぎて、何を叫んでいるのか分からない。


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