第6章 流されて異界
第132話 異邦人
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が抱き着く事を選択している以上、彼女自身が俺の事を拒否している訳ではない。
それならば、
「向こうの世界にも大切な家族を残して来ているから」
俺自身が契約に縛られている訳ではない。そう言う意味を籠めて言葉を続ける。
血が繋がっている訳ではない。まして夫婦と言う意味での家族でもない。しかし、彼女は、今の生では肉親との絆や縁が非常に薄い俺に取って最後に残った家族。
安全な地に自分たちだけで逃げるのは、タバサの貴族としての矜持が許さない。王家の血がそれを容認しない。
それは自らの野望の為に故郷を混乱の淵に投げ込んだ自らの父親や、その父親の言に唯々諾々と従い、自らの娘……双子の片割れを捨てた母親に対する態度を見ても明らか。
……タバサは自らの両親に対してある程度の隔意を抱いて居た。それは、自らの名前、シャルロットと言う名前を拒絶している事からも容易に想像出来る。
今なら分かる。あの時。……ブレストの軍港で起きていた事件を解決する為に、俺だけが派遣されようとした際。自らは、母親の看病の為に向かえと言われた際に発した負の感情は、俺が彼女と共にオルレアン屋敷に向かわなかった事への不安ではなかった。
それはおそらく、急に告げられた母親の看病と言う事への小さな拒絶だった……と思う。
そもそも彼女。今、自らの事をタバサと名乗って居る少女の前世が、俺の知っている彼女なら、彼女はオルレアン公シャルルの『双子などと言う不吉な存在がオルレアン家で産まれた事実は伏せなければならない。そうしなければ、儂の王位への道が断たれて仕舞う』……と言う考えの元に処分された双子の片割れの方。
その記憶がどの段階で回復したのか分からない。……おそらくは徐々に。最終的には誘いの香炉を手に入れた段階である程度思い出したと考えられるが、その段階で彼女は自らの両親との間の精神的な絆は断ち切って居たはず。
そもそも彼女は……前世のタバサは、シャルロットと彼女の母親を殺人祭鬼の連中から助け出し、俺の両親。マジャール侯爵の元に引き取った後も、自らの母親の元には一度も赴かなかった。
……俺が知っている。思い出した範囲内では。
それは当然、自らの育ての母マジャール侯爵夫人アデライードに対する配慮と言う側面がなかった訳ではないと思う。
それに、オルレアン大公夫人は、矢張り今生と同じように精神が崩壊して、今、自分がどのような状況に置かれて居るのかさえ分からない状態だったのも間違いない。
しかし、それだけが理由ではなかったはず。
何故ならば、そんな事をすれば当時の俺の母親……自らを実の子供と分け隔てなく育ててくれた母親が哀しむ事が分かっていたはずだから。
しかし、その事が分かっていながらも、彼女は会いに行く事は
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