第6章 流されて異界
第132話 異邦人
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会話の後に未来が確定していた可能性もありますが……。
この世界に俺が留まり続けられるのならそれも可能でしょうが、残念ながらそれは難しい。
故に、そこからもう一歩余分に踏み込む事もなく現状維持が確定した。そう言う事。
もしかすると自分の事は棚に上げて、その一歩を踏み込まない俺に対して、逆に不満を感じているかも知れませんが……。
ただ、俺自身が現――
俺の意識が目の前の少女以外の誰かに逸れた。その刹那。
有希が僅かに身じろぎを行う。それは本当に些細な動き。おそらく、直接触れて居たから分かっただけ、そう言うレベルの動き。そして半歩分、俺に対して……。
「!」
そっと寄り添うように。少し身長差があるので、まるで胸に顔を埋めるように抱き着いて来る彼女。
僅かに俯き加減。俺の表情を、行動を余す事なく映す瞳は敢えて俺から外されている。
……俺の思考がハルヒに向いて居た事に気付いた。その可能性はある……か……。
しかし――
「帰りたい?」
小さく、抑揚の少ない彼女独特の口調で問い掛けて来る有希。
タバサの声、そして彼女の香りは俺に取って強い郷愁を誘うアイテム。何故か……いや、その理由も分かっている。これは今の俺ではない、かつて俺だった存在の想い。
それならば有希の声は――
後頭部から瞳に掛けて走るピリピリとした何か。鼻の奥が詰まったような感覚。
これは喪失感? それとも愛しさなのか……。
ただ、たったひとつだけ分かった事がある。
「帰りたいか、帰りたくないか、と聞かれたのなら帰りたくない、と答えるのが正しいのかな」
まるで俺の心音を聞き易いように、直接耳を胸に当てている有希をそっと抱き締める。
……出来るだけ自らの声が鼻声にならないように気を付けながら。
実際、ハルケギニアに戻ったとしても危険な事件に巻き込まれるだけ、……なのは間違いない。そして、俺に責任があるのはタバサと俺が縁を結んだ一部の人間だけ。
彼、彼女らを安全な場所。例えば、この長門有希が暮らして来た世界ならばハルケギニアと比べると格段に安全な世界だと言えるので、コッチの世界に移動させて来られるのなら、それだけで帰る必要はなくなる。
必要はなくなる、のですが……。
「但し、帰らなければならない理由はある」
最初に帰りたくない、と言った時には大きな安堵と言う気配を発し、
でも、帰らなければならない、と口にした時には――
そう、たったひとつ分かった事。それは、今の会話に関して、彼女は俺の瞳を覗き込む事が出来なかった、……と言う部分。
有希が俺と直接視線を合わせたくない理由も幾つか思い当たる物がある。ただ、視線を交わらせない為に、こうやって自ら
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