第6章 流されて異界
第132話 異邦人
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の直後――
もう一度、襖に柔らかい何かがぶつけられる音と気配。
そして……
「ちゃんと挨拶をしに戻って来なさいよね!」
その時にちゃんと――
何か言い掛けるハルヒ。
しかし、その言葉を最後まで聞く前に、俺は後ろ手で襖を閉めて仕舞ったのでした。
☆★☆★☆
小さな音も立てず、後ろ手でそっと扉を閉める俺。
夜の闇に沈んだ廊下は、穏やかな明るい人工の光に慣れた俺に取って正に異世界。高い天井。和風の意匠で統一された静かな空間は、厳かな冷たい空気に包まれ、足元だけを照らす誘導灯のみが此方と彼岸の繋がりのような気もして来る。
「少し待たせたかな?」
普段よりも冷たく暗い、冬の闇が満ちた廊下。多くの人の思い出の詰まった場所に、今はただ二人のみが存在するこの事実が、この場所をより冷たく、そして昏く感じさせていたのかも知れない。
少女は普段と同じように小さく首を横に振った。少し伸びて来たショートボブの紫が僅かに揺れ、誘導灯の緑が彼女の表情の中心に存在する銀に微かに反射する。
そうか、と短く答えた後、あまり櫛を入れる事のない彼女の頭に右手を乗せた。日常の流れの中で行われる、至極自然な行為。
表面上は冷たい感覚。そして、タバサとは違う少し硬い髪の毛の質を手の平に感じながら、
「それは悪かったな」
……と、先ほどの有希の答えから考えると、まったくかみ合わない答えを返す。そもそも、彼女が俺の事を迎えに来る約束になってはいなかったはず。
それでも尚、この場に居ると言う事は、彼女の方に何か用があると言う事なのでしょうが……。
俺に触れられている事。その手から感じている生命の温かさ。そして、意識して押している経絡への刺激などから、今の彼女が感じているのはおそらく安らぎ。
何時もと同じ衣装。俺とのお揃いにした……可能性もある北高校の制服姿に、少し大きめの北高指定のカーディガンを羽織る。そして、本来は必要のないはずのメガネ。白の靴下も清楚で色の白い彼女には良く似合っている。
少し釣り目気味の瞳。すっきりとした鼻梁に、薄い唇。薄闇に凛として立つ姿は少し……いや、かなり中性的な雰囲気を醸し出していた。
もっともそれは、耳を隠す事のない、女性としてはかなり短い部類の髪型と、未だ成長途上にある少女としての身体付きから発生する物なのでしょうが。
真っ直ぐに俺を見つめる有希。微かに潤んだ、まるで深い湖を連想させる瞳に……しかし、今は僅かな翳り。この翳りの理由は……。
迷いか――
普段から自信満々と言う雰囲気ではない彼女。
いや、他者から見れば自信満々に行動しているように見えるでしょう。確かに、行動自体に躊躇はなく、決断にも表面上を見るだけならば迷い
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