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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第132話 異邦人
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俺の心情的に言えば、僅かに上気した頬に有希の少し冷たい手の平は心地良く、更に彼女に触れられている事は俺に取っても安心する行為。決して不快な状況ではない以上、本来ならこのまま成り行きに任せても良い場面。
 彼女に触れられると、それだけで心の何処かが震える。これが俺自身の感情(恋心)なのか、それとも違うのか。これに付いては分からない。分からないが、心の何処かでは、もういい加減、次のステップに移っても良いのではないか、そう囁く自分が居るのも事実。

 ただ……。
 思考は堂々巡り。俺と、今の俺ではない、かつて俺だった存在のせめぎ合い。それがふたりだけなら無理矢理押し止める事も、無理矢理納得させる事も難しくはない。
 しかし、せめぎ合っているのは俺と、俺以外の複数の俺たち。

 結論は出ない。そもそも、有希に対する感情が俺の物なのか、それともそれ以外の何者……少なくとも俺には違いないが、過去の俺であった存在の物なのかさえはっきりしない状況では、このまま場に流される訳には行かない。
 自分の想いすら理解出来ない様では……。

 かなり自嘲的な笑みを一瞬浮かべる俺。しかし、直ぐに取り繕ったかのような作り笑顔を彼女に向けた。
 もっとも、彼女……長門有希は俺の心の動きには敏感。おそらく、俺の心の中にある蟠りなど初めから気付いている。

 不自然な間。有希の瞳を見つめ固まる俺。そして、同じように俺に行動を阻止された彼女が俺の瞳を覗き込む。

 彼女の行動を阻止した理由すら定かでない以上、この時間は仕方がない。――俺に取っては仕方がない事なのだが、しかし、とても居心地の悪い時間。
 普段よりも時間が長く感じられる。その時間の中で答えを探す俺。
 付け焼刃だろうが、何であろうが、このままでは俺が単に有希を拒絶しただけで終わって仕舞う。
 何か答えを……。それも場を流して仕舞えるような言葉を……。

「俺はオマエの事しか考えていないさ。正に誠実なることトロイラスの如しだ」


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