第6章 流されて異界
第132話 異邦人
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い想いを感じ、背中と、そして正面から強く感じる視線に意識を向ける俺。
但し、故に今ここではお茶を濁すような……例えば、今まで長門さん、などと呼んで居た時のような答えを返す事は出来ない。
「今はとて 天の羽衣 着る折ぞ……とでも言えば正しい関係かな」
しばし視線を彷徨わせ、再び、俺を見据えるハルヒの瞳と視線を合わせた後に、かなり落ち着いた声音でそう答える俺。
この言葉の元ネタを知らなければそれまで。知って居れば……。
「何よ、それ。まったく意味が判らないわよ?」
それとも何、あんた、自分の事が宇宙人だとでも言うの?
今夜、この部屋にやって来てから初めて、夕食を食いっぱぐれた時のアヒルのような顔で俺を見つめ返すハルヒ。少しの苛立ちと、その中に何故か、少しの落ち着きを同時に内包している。そんなかなり微妙な雰囲気。
……それぐらい、この部屋に入って来てからの彼女はテンパって居たと言う事なのか。
ただ――
成るほど、元ネタは知って居たけど、意味までは伝わらなかったか。
「まぁ確かに、帰ったとしても忘れられるような相手ではないかな」
簡単に忘れられるような相手なら人生を跨ぎ、次元の壁を越えてまで絆を結ぶ事は出来ない。彼女との繋がりは既に魂に刻まれた縁。今、色々と蘇えりつつある、外部の記憶媒体を通じてインストールされつつある記憶とは一線を画する物。
ただ、そうかと言ってリマ症候群とストックホルム症候群では身も蓋もなさ過ぎる。
それならば、
「そもそも、お前、昨夜の俺が名乗った偽名の元ネタを知って居たのなら、俺の正体も、それに有希との関係も薄々分かると思うけどな」
もう隠す心算もなく、素直に。そして自然な感じで彼女の名前を呼ぶ。それに、その方が彼女……今、この部屋には居ない方の彼女も喜びますから。
そんな俺の顔を見据えながら、矢張り疑問符に彩られた表情のハルヒ。俺が長門さん、と呼ばずに、素直に有希と呼んだ事に対しては軽くスルー。
ただ、成るほどね。流石にこれは難易度が高過ぎたか。
こんな事が分かるのは有希ぐらいかも知れない。
無意識の内に二人……いや、本当はハルケギニアのタバサまで交えて三人を比べて居た事に気付き、一瞬の自己嫌悪。俺はそんなに偉い訳でもなければ、二の線だと言う訳でもない。
まして、生涯の内に愛する相手は一人居れば十分だと考えていたはずなのに……。
「仙童寅吉って言うのは――」
結局、寂しい、そして冷たい夜が悪い。そう責任転嫁を行って思考を立て直し、説明を続ける俺。
そう、仙童寅吉とは、江戸時代の平田篤胤と言う国学者の書いた『仙境異聞』と言う本の中に登場する人物。……と言っても、
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