六話:正せぬ過ち
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それがこの国に足りないものを如実に表していた。荒れ果てた土地には作物も育たたない。
動かぬ現状に焦り、どちらかが人も大地も腐らせる禁忌の兵器が使ってしまったのか。
それとも、人が死に過ぎて作り手そのものが消えてしまったのか。
どちらにせよ食料がない。当然、食べる物がなければ人は生きてはいけない。
おまけにこちらは元々物資の少ない民衆側。僅かな食糧で食い繋いできたのだろう。
その大切な食糧に衛宮切嗣は毒を盛った。食べれば死ぬ。食べねば死ぬ。
そんな悪魔の選択を突き付けたというのに当の本人は気づきもしなかった。
彼らが命の危機に晒されている中で何も感じもしなかった。
余りの外道さと、悪辣さに笑いが零れてしまう。
「……っ」
そこで小さな呻き声を聞く。生き残りかと思う前に体はキャリコをそちらに向けていた。
ついで、視線を向けてみるとそこには蹲り、身体を震わせ、血を口から吐き出す少年が居た。
年としては、はやてと同じ程度だろう。ただ、身体は栄養がないためにずっと小さい。
運悪く死ねなかったのか、苦しそうに喉で風を切る。
死にかけにも関わらず感じられる魔力から、彼が優秀な魔導士として取り立てられた存在だと分かる。
「……今、楽にしてやる」
全身を駆け巡る毒の苦痛は並大抵のものではない。
大の大人ですら悲鳴を上げて死んでいく代物だ。
だというのに一言も叫んでいないのは叫ぶ力が残っていないから。
初めから生きる気力を奪われているからだ。
切嗣は楽にしてやろうと思いゆっくりと少年に近づいていく。
苦しみを与えぬように脳に銃口を向け、少年を見下ろす。
「……何がいけなかったんだよ?」
そこで少年が口を開いた。思わず警戒を上げる切嗣。
しかし、少年の瞳には切嗣は映っていない。苦しみのあまりに譫言を呟いているのだ。
すぐにでも殺して楽にしてやるべきだと分かっている。
だが、身体は硬直して少年の言葉に聞き入ってしまった。
以前であればこんなことはなかった。体が動きを止めることなどなかった。
それが起きるのは彼自身が己の行動の無意味さを理解してしまったからだろう。
「こうしなきゃ……生きられなかったのに……何も悪いことはしていないのに」
掠れた言葉が切嗣の心に突き刺さる。そうだ、彼は人を殺さなければ生きられなかったのだ。
善悪の問題ではない。生きるためにはそれ以外の道がなかった。
偶々、その道が人殺しであっただけの問題。衛宮切嗣のように自ら選んだのではない。
年齢から考えればこの少年は以前の紛争で親を失い、人間兵器として拾われたのだろう。
もしかすれば、かつて切嗣が殺した誰かの子供かもしれない。
そして、少年は生き
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