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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
口は災いの何とやら
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悪意を感じそうでな」

 よくサークルやら職場で、老若男女仲良しの雰囲気を出そうとアットホームな態度やらくだけた空気を醸し出そうとする運びがあるが、責任ある組織である以上は構成員の誰かにリーダーシップというものが必要とされる。万が一、過失責任の行方を不鮮明にさせないためにも誰かが最終的判断を下し、その責を負わなければならないためだ。
 そして、その権利を付与されるに値する人間の条件のひとつに年上の威厳というものがある。

 しかしながら、その最終判断の権利を逆に利用して個人的な利を生み出す輩もいる。決してリーダーになりたがらない、けれど知恵と行動力は人並み以上にある――俗に黒幕と揶揄される者たちだが、おおよそ演技ができる人物で機転が利き、口が達者という条件は珠希にも合致する。
 そして、そういった輩は他人の揚げ足取りや約束を盾に取るのが得意で、年上やリーダー格の責任や自尊心をくすぐるのが上手いのを智明は知っていた。

「悪意ってなんですか、悪意って」
「国語辞典で引いてみろ」
「むぅ……」
「んな顔しても無駄だ」
「あいたっ」

 こちらとしては素直に慣例(・・)に従って、先輩の敬称を添えて智明のことを呼ぼうとしているのに、悪意を感じると思いもよらない理由で拒否された珠希は小さく頬を膨らませ、口を尖らせる。
 その不満げな仕草は誰もがあざと可愛いと感じるのだが、それをもう10年近く前に見たことがある智明はまったく相手にしないどころか、逆に珠希の脳天に軽い手刀を振り下ろしてきた。

「もーっ、いきなり失礼なのはそっちもじゃないですか。智明……さん?」
「なんでそこで間ができるんだよ。しかもなぜに疑問形? てか昔の呼び方でいいって言っただろ」
「い、いやあ、さすがに『トモくん』は馴れ馴れしすぎだと思うんで」
「んー。まあしゃあない。そういうことなら」

 智明は裏表なく、本気で意に介していないようだが、実際のところは珠希が気にしてしまう。
 さすがに十何年来にも及ぶ親密な交友関係もない相手、しかも先輩を、入学したての後輩が馴れ馴れしく呼んでいいかと尋ねると、実際は両者の合意だけでいいはずである。
 しかし、学校という狭い社会組織の中ではそうもいかない。智に働けば角が立ち、情に棹させば――と、結った草ではなく机の上で組んだ腕枕で考えたことさえある。これでは明治時代の文豪もノイローゼになるというものだろう、とwi-fi世代の現役JKエロ原画家は妙な納得をしてしまった。

 そもそも、一度習えば何でもできるというチートスキル持ちかつ先輩・後輩のバランスブレイカーである珠希に縁故や上下関係や契約社会の実態を教えてくれたのは学校の授業や部活、家族や地域社会ではなく、『天河みすず』の名前を背に独り歩きし始めたイラストレー
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