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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
口は災いの何とやら
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インサート(なんとか)(=挿入)されるパターンもある。
 土俵の外、主人公がヒロインたちの手によって×××にナニを××(インサート)するかなんてのは読者の想像に完全依拠するが、そんなことを考えていても珠希の時間は過ぎるだけだ。


 モザイクがかかる内容のくせにそれを字にすると全く性的な雰囲気がない思考をばっさり切り捨て、さて、今日の晩ご飯どうしよう? と、珠希は今日の夕食の献立を脳内レシピから選びながら机の上を片付け、帰り支度を始める。
 同時にスマホで今月末に設定されたエリシュオンソフトウエアとの関係者ミーティングの日程と内容の確認もしつつ、挿絵を担当しているラノベの新刊表紙向けイラストの指示書に適した構図(アングル)案も複数考えるという、マルチタスクの無駄遣いをしながら。


 すると、そこに星河でも昴でもない、別の男子の声が響いた。

「あ、あのさ、竜門さん。2年の先輩が呼んでるんだけど?」
「へっ?」

 予期していなかったマルチタスクの強制キャンセルに伴い、思わず気の抜けた返事をしてしまったが、あらかじめここに記しておこう。


    この学校の先輩に、珠希の知り合いなどいない。


 長女体質からくる面倒見のよさをもって年下からは基本的に慕われる珠希だが、文武両道・容姿端麗を体現し、何でもそつなくこなして習得していくために、年齢の近い年上からは圧倒的に煙たがられてきた。
 当然、進路相談で先輩に相談など最初(ハナ)から頭になかったし、この学校に進学した同窓生がいるかなどまったく耳にしていないし、興味もなく、仮にそのOB・OGを頼るくらいなら3年間“ぼっち”でいいとまで思っていたくらいだ。


「え? どうして?」
「何か、話があるんだって」
「話? 何それ?」
「俺に言われてもなぁ……」

 言伝を頼まれただけの男子からすれば、名も知らない先輩が珠希に向けた話の内容など知ったことではないし、知る必要も理由もない。むしろ探りを入れるほうがおかしいというものだ。

「うーん……。わかった。ありがとね」
「お、おう」

 まだ高校入学から1か月も経っていない今日び、先輩から睨まれるような事案があるかというと――むしろ珠希のほうから手を出し、手を下した件が――確かにあるものの、それに対する報復であるとするなら、こうして堂々と呼び出しはしないだろう。
 しかしその件以外の事案の心当たりがまったくない珠希は、ひとまず言伝を持ってきてくれたクラスメートに小さく微笑むと、教室の後方の出入口で待つ見慣れない人物から話を聞いてみることにした。

 なお、珠希から微笑を返されたクラスメート男子はこの後、友人たちと一緒に強制的に連れションに行かされたとの目撃談が匿名で流れることになる。

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