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ユリシーズの帰還
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第一章

                      ユリシーズの帰還
 私はいきなり。彼女にこんなことを言われた。
 彼女といっても交際はしていない。同じ大学で働いているだけの関係だ。髪は長くさらりとしている黒で目は少しきつい感じである。
 背は高く胸が目立つ。とはいってもいつも膝までの露出の少ないタイトかズボンでしかも胸のガードも堅い。
 そんな彼女には浮いた噂一つない。その彼女がだ。
 私にだ。こんなことを言ってきたのだ。
「バロックはお好きでしょうか」
「バロック!?」
 その時私は自分の席でコーヒーを飲んでいた。その私にこう言ってきたのだ。
「バロックというと」
「バロック芸術です」
「ああ、あれだね」
 話を振られてだ。私も理解した。
 それでだ。こう彼女に言った。
「十七世紀の欧州の芸術だね」
「ルイ十四世を中心とした」
「かなり派手で大掛かりな」
 教科書で読んだことをそのまま口にした。バロック芸術は私の専門ではない。私の専門はシュールリアリズムだ。彼女は自然主義だ。
 そのお互いの専門分野でないことをだ。今話すのである。
 そのバロックについてだ。私はさらに言った。
「有名なのはベルサイユ宮殿だけれど」
「それとです」
「それと?」
「モンテヴェルディです」
 今度はこの音楽家の名前が出て来た。
「その音楽家のです」
「聴いたことはないけれど」
「今度上演があります」
 そのだ。モンテヴェルディのだというのだ。
「それでチケットを貰いまして」
「それを二枚だね」
「勉強の為に一緒に行かれますか」
 こう私を誘ってきたのだ。学問の為だった。
「どうされますか」
「モンテヴェルディ」
 その音楽家の名前を。私も言葉に出した。
「そうだね」
「はい、如何でしょうか」
「上演は何時かな」
「一週間後です」
 その時だというのだ。
「どうされますか、それで」
「行こうか」
 すぐにだ。私は答えた。
「それじゃあ」
「バロックオペラね」
「御覧になられたことはないですね」
「ユリシーズ。ウリッセとも言ったかな」
「実際にそう呼ばれることもある作品です」
「ウリッセの帰還か」
「そうです、そうともです」
「ギリシア神話のオデュッセウス」
 呼び名は色々だがその対象は一つだ。
「その帰還の話をだね」
「題材にした作品です」
「さて、バロック音楽」
 それが具体的にどういったものかもだ。私は知らない。
 果たしてどういったものかだ。彼女に尋ねると。
「実は私もです」
「知らないんだね」
「はい、知りません」
 こう僕に答えるのだった。
「実は」
「じゃあそれを確める為にも」
「少し行ってみましょう」
 こうした話をしてだった
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