第四章
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かなり厚い服だ、ダークブラウンの地にあちこちに白い濃い毛が出ている、その服を何枚も重ね着していて手にはミトン、頭にも厚いフードがあり靴は重厚なブーツだ。
かなり厚い服だ、妻のカテーリン金髪でグレーの瞳で楚々とした外見の彼女がその写真を見て夫に尋ねた。
「あの」
「何かな」
「はい、この服は」
「これはパニだ」
「パニというんですか」
「私が前に勤務していたヤマロネネツ自治管区にネネツ族という民族がいる」
「ネネツ族といいますと」
その民族の名前を聞いてだ、カテーリンも言った。
「確かアジア系の」
「そうだ、その人達だ」
「あの人達の服ですか」
「トナカイの毛皮で作られている」
その服、パニの話もするのだった。
「毛皮には狐のものも使われていて男ものはマリチャといってだ」
「女性のものがパニですね」
「そうだ、パニは女性の服だ」
そうだというのだ。
「この女の人の着ている服だ」
「男のこの大きな方は」
「私の元部下だ」
写真の中で微笑んでいるボロゾフスキーを見てだ、フルシコフも微笑みになっている。
「元気そうだな」
「色々な色のラシャが肩や袖に付いていて」
カテーリンはそちらも見ている。
「それに金属の飾り板や鈴にビーズ玉も一杯飾っていますね」
「結婚した時の写真か」
「だからこうして飾っていますか」
「そうだよ、しかし」
ここでだ、フルシコフは写真の中で微笑むボロゾフスキーと彼の妻の写真を見ながら二人の後ろを見た。
そこはだ、森だったが一面雪だ。彼はその雪も見て言った。
「本当に寒そうな場所だな」
「そうですね、このウラジオストクよりも」
「ここやレニングラードも寒いが」
「ヤマロネネツは北極の方でしたね」
「永久凍土だ」
まさにそうした場所だというのだ。
「こんな寒さじゃない」
「写真でも寒そうですね」
「だからこうした服なんだろうな」
二人のそのパニとマリチャを見て言った。
「寒さにも耐えられるな」
「そうですね、本当に」
「寒そうだ、けれどな」
「それでいてとても暖かそうですね」
「二人にも幸せになって欲しいな」
「私達みたいに、ですね」
「その通りだ」
フルシコフは写真の中のボロゾフスキー達に向けている笑顔を妻に向けた。今は私服で暖かい部屋の中にいる。その暖かい中での言葉だった。
パニ 完
2015・12・29
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