第八・五話 青葉の想い
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姿を追ってしまい。
アイツが影で努力している姿なんかも見てしまった。学校近くの民家の塀に何年もひたすら野球ボールを投げこむアイツの姿や。
若ちゃんの墓の前で、誰にも気付かれないように涙を流す場面とか……。
そんな場面を見てしまっても、誰にも言うことはなかった。
まあ、お父さんとかにはアイツの誕生日の日に若ちゃんの墓参りに行くとアイツがいるよ、って言っちゃたけど。
でも言うのは身内だけ。
私はアイツが泣く場面を他の人に見られたくはなかった。
ああ、そうか。
やっぱり私は______なんだぁ。
若ちゃんに言われた『奪っちゃダメだからね?』という一言が、足枷となっていたけど。
やっぱり私は______。
「青葉ちゃん?」
「え?」
声をかけられて右隣を向くと、心配そうな表情で顔を覗き込むお義理兄さんの姿が目に入った。
「大丈夫か? なんだかボーっとしてたけど……」
「え? あ、うん……大丈夫よ」
いけない、いけない。
回想してる場合じゃなかった。
「今……何回?」
「9回だよ」
スコアボードを見ると、次は星秀の守備。
あと、アウト3つで決勝戦だ。
そして、あと三人抑えればアイツはまた完全試合を達成出来る。
若ちゃんが言っていた言葉が脳内に思い浮かぶ。
『コウをその辺の男と一緒にしてると、後で痛い目に遭うぞ』
キャチボールもマトモに出来ない男が何をぬかす、なんて当時の私は思っていたけど。
若ちゃんのその言葉は予言となって実現しようとしていた。
『夏の甲子園初の完全試合達成』……それは今まで誰もなしえなかった悲願。
それをアイツはやってしまった。
本人は「へー、そうなのかー。へー」なんて実感が湧かないのか、いつも通りな感じだったけど。
どれだけ凄いことなのか。もっと自覚を持てといいたい。
それともっと身支度に気をつけろといいたい!
今や日本中の人がアイツに注目しているのだから。
アイツが活躍する度に、新聞に載る度に自分のことのように誇らしなる。
どうだ! 若ちゃんが好きだった人はこんなにも凄い人なんだぞ!
私が大嫌いな奴はこんなにも凄い人になってしまったんだぞ。
そう叫びたくなるのを堪える。
そして。
青空を見上げながら心の中で思う。
私達のコウはこんなにも凄い男になったんだよ、若ちゃん。
……変な虫が寄ってくるのは面白くないけど。
だけど、今のアイツはそんな虫達には靡かない。
靡かせない。
だって。
若ちゃんの見た最期の夢。
それはまだ叶っていないんだから。
『コウがピッチャーで、赤石君がキャッチャー。舞台は超満員の甲子園!』
その夢が叶う瞬間まで、アイツに女なんて必要ない。
ううん。夢が叶っても他の
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