第七十一話
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造作に剥ぎ取られた扉を見る。
どうみても人間の両手で扉を掴み、そのまま引きはがしたようにしか見えなかった。
そんな人間がいるのか? 否、あり得ない。
人間ではありえない。
でも、俺は知っている。
そんな奴と何度も戦ったから。
俺たちはトイレの中へと足を踏み込む。
そして、そこにあった。
広い身障者トイレの奥にある便器に、俯せ状態で頭を突っ込んだままの死体が。
さっきと同じように、背中を斜めにぶった切られ、中央で傷口を無理矢理広げた跡と内部の空洞が。
俺は気持ち悪くなってはいたけれど、便器に頭を耳が浸かるまで押し込まれた遺体を引き抜いた。
無理矢理押し込まれたので頭蓋骨が陥没し、生前の面影はほとんど無くなってはいたものの、やはりその顔には見覚えがあった。やはり、うちの高校の生徒だったんだ。
「酷いわね……」
王女が呟く。
「うん。酷いよ。殺しを楽しんでいるよな、コイツは」
「それだけじゃないでしょう? 」
俺は彼女の言うことがよく分からなかった。
「二人を見たでしょう。彼らは心臓をえぐり出されているのを」
確かに、二人の遺体には無理に傷口を広げて、何かを取りだした痕跡があった。そしてその位置にある臓器といえば心臓しかなかった。
「でもそんなものをどうしたんだ」
「さあね。それは分からないわ。でも、どこにも取りだした心臓は無かった。寄生根が持っているのかもしれないし、もしかしたら。ううん、そっちの方があり得るわね」
「そっちの方って何なんだ」
「簡単じゃない。……食べてしまったのよ」
予想はしていたけど、ハッキリと言われると衝撃を感じる。人肉を食べるということへの本能的な嫌悪感とタブー視。普通の人間なら、共食いなんてするなんて想像もしたくないことなんだから。
「そんな、馬鹿な」
とはいいながらも、それ以外は考えられなかった。どういった理由でかは分からないけれど、それが一番しっくり来る結論だ。食べるために取りだした。ただそれだけなのかもしれない。
「肉体を維持するために必要だったのかもしれないし、単に儀式的な理由だったのかもしれない。それともコレクションにしたかったのかも知れない。……でもそんなことは、寄生根にしか分からないし、私たちがそれを突き止めたとしても何の利も無いことだけは間違いないわ。さあ、行くわよ。まだ犠牲者が出るわよ」
王女は他にも人間がいるのが分かっているように言った。
どうしてまだ人がいることが分かるんだと聞こうと思った刹那、階上から何かが割れるような音が館内に響き渡った。
オオカミが吼える声も聞こえる。
「行くわよ、シュウ」
かけ声を合図にして俺は王女を抱き上げた。
微かに悲鳴のよう
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