第七十話
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く。溶けるように穴が広がり始める。ものの数秒のうちに人一人が出入りできるほどの大きさの出入り口となった。
「急ぎましょう」
そう言うと、彼女は結界の奥へと踏み出した。俺も続く。
しかし、寄生根から受けたダメージは回復したんだろうかと心配になる。声をかけようと思ったけど、歩く姿を見る限りは大丈夫そうにみえる。
結界の中は完全な暗闇。
まあ夜だから当たり前なんだけど。
ただ、違うところは世界がモノクロ化しているってこと。
色の無い世界。
それが寄生根の作り出した結界の中の世界なんだ。
外からは普通に、なんらいつもと変わりなく見える風景なのに、中に入ってみるとぜんぜん違う世界となってしまっているんだ。そしてそれに気づくことのできる人間は、おそらく存在しない。
店舗のおそらくは正面入り口の近くに1台の白ワゴン車が止まっている。
ただ、様子がおかしい……気がする。
閉店してから何時間も経っているし、駐車枠でもない店舗入口前に無造作に止められているのは違和感がある。自販機も何も置いていないんだから。
周辺の居住者が駐車しているにしてもあまりに不自然だな。普通なら隅っこに止めるだろう。
「行ってみましょう、シュウ」
促され、俺たちはその車の側へと歩いて行く。
遠めにはよく分からなかったが、近づいてみると運転手側の窓は粉々に砕け散っていた。
運転席と助手席のエアバックが派手に広がっている。
中を覗くとそこには血まみれの男がハンドルに覆いかぶさるように倒れている。
外見から20代くらいに見える。黒のジャージを着用している。
見るとフロンとガラスには大きな蜘蛛の巣状のひび割れが入っていた。シートベルトをしていなかったから、エアバックですらフロントガラスへの運転手の直撃を防げなかったのか?
車の右フロントには何かに思い切りぶつかったような痕跡がある。電柱か何かのように見える。
どうやらその事故の影響でへこみとフロントガラスの割れが生じたようだ。
王女はドアを開けてすでに事切れている男の状態を確認している。
「事故のせいで死んだわけじゃないようね」
「うん、そうだね。これはどう考えても事故じゃないよね」
顔面血まみれの男の首には強く圧迫された跡がくっきりと残されており、そしてその頭部は通常では考えられない方向へ捻じ曲げられていた。
圧迫痕は人間の手でつけられたものであることが、その痣のようなものから見て取れる。
片手でやっている。
間違いなく寄生根だ。
この車のフロント部分の衝突跡も寄生根に乗っ取られた人間にぶつかったものだろう。
遠くで何かが割れるような音が聞こえた。
「どうやら、まだ他に人間がいたようね。……寄生根もまだいる
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