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異界の王女と人狼の騎士
第六十八話
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に違いない。なぜならたくさんの足跡があちこちに残されていて、とても現場保全されているというわけでもなさそうだからだった。
「当たり前といえば当たり前だけど、証拠らしいものは何も残されていないね。ま、こういう場所で事件が起こったっていうマニア的な趣味がないとあまり意味はないかなあ」
 俺は軽く伸びをしながら王女を見る。
 彼女は辺りを見回したかと思うと、滑り台の前にしゃがみ込む。
「うん? どうかしたの? 」
 俺の問いには答えず、地面に手をかざすと目を閉じて黙り込んだ。
 何かの宗教的な儀式なのか? そんなことを思いながらも、なんだか声をかけちゃいけないという気配だけは感じたので、しばらく黙っておくことにした。
 王女をよく見ると、その長い髪の毛先が僅かながらも浮き上がっているように見える。それだけじゃない、明らかに彼女の周囲の空気感が変動している。大気が小波立つというのかな? なんかわからないけど、彼女の体から何かの気が発せられ、それによって空気が揺らいでいるような気がした。
 王女の周囲はより深みがかった暗さになり、逆にその光を吸収して王女の体から微光が発せられているように見える。
 何らかの超常現象が俺の前で展開されているんだ。

「ふう……」
 唐突に目を開けた王女が、大きく息を吐いた。その瞬間にあたりの緊張感が一気に弛緩するのがわかった。本当に空気が緊張するってあるんだね。
 王女の額からは幾筋の汗が落ちている。
 俺はポケットからハンカチを取りだして彼女に渡した。
 彼女は無言でそれを受け取ると額の汗をぬぐう。
「ねえねえ、姫。今何やってたの? 」
 好奇心丸出しで彼女に聞く。

 少し間が開いたが、王女が答えてくれる。
「この空間に残された気、……気配、残留思念、淀み、生霊その他いろいろなものを感じ取っていたのよ。それらから読み取れる情報は多い。例えたくさんの人間達に踏み荒らされたといっても完全に消える事はないわ」

「感じ取ることができるってこと? つまりサイコメトリーか何かみたいな能力なのかな、姫が使った力は! 」

 Psychometry

 モノに残された人間や動物の残留思念や記憶を読み取る能力らしいけれど、ものによってはさらにはモノそのものの記憶さえ読み取ることも可能なんていう凄い能力者も存在するらしい。
 ……つまり、オカルトだ。SFだ。ちょっと前の俺なら信じることさえなかった。所詮、漫画や映画の中でのみ存在する力だと思っていた。
 でも、オカルトなんて概念を遥かに超越した王女と出会い、寄生根に寄生された化け物に襲われ殺されかけたこと、そして自分さえもがそのオカルト世界の住人なみの力を持ってしまったことから、今じゃあなんの違和感も無く受け入れられるようになっている自分がいる。
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