06.重い切り札
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
提督が本当に不思議そうな顔をしてそういい、僕はそれを受けてちょっと吹いてしまう。この鎮守府に来てまだ一日ちょっとだけど、なんだかこんなゆっくりとした気分で会話をしていることがすごく新鮮で、執務室内にはリラックスした心地いい空気が流れていた。時間が過ぎる毎に執務室の外は騒がしくなっており、防音設備が整っているはずの執務室からも室外の喧騒がよく聞こえる。だが外の騒がしさが逆に、執務室内の時間のゆったりさを際立たせていた。
「比叡って、お前んとこでどんな目玉焼き作ってたの?」
「メタリックブルーって言うの? 黄身がなんか金属っぽい青色してて、なんかすんごい苦酸っぱい味がした」
「あー……なんか目に浮かぶわ……」
「ここでだと、姉ちゃんどんな目玉焼き焼いてたの?」
「半熟の黄身がな……なんつーかな……赤銅色っつーか焼鉄色っつーか……長年使って焼けた主砲の色って言えばいいのかな……なんかそんな感じの色してたな。ずずっ」
「あー……ありえない色のはずなのに、“姉ちゃん作”って枕詞つけただけで説得力が増すね、それ……」
「だろ? 食った時にサバの匂いがするアルミホイルみたいな味の目玉焼きなんて生まれて初めて食ったぜ……」
僕は比叡姉ちゃんが初めてうちで作ってくれたメタリックブルーの目玉焼きとエメラルドグリーンの味噌汁の凶暴な味を思い出し、無駄に食欲を失った。提督もひどくげんなりした表情を浮かべているあたり、恐らく提督も姉ちゃんの目玉焼きを思い出しているのだろう。
「でもさー……憎めないんだよなー比叡のこと。一生懸命なのがわかるから、応援したくなるっつーか……裏表もないし……料理にしても普通に作れば美味しいのに、気合の入り過ぎで余計なことしちゃうだろ? そこがまた憎めないっつーか、かわいいっつーか……」
突然女子会の恋話みたいなノリになってきた……思春期を感じるなぁこういう会話は……
「お前もそうだろ?」
「僕は〜……よくわかんない……気がついたら好きになってた」
実際自分の気持ちに気付いたのは、姉ちゃんが消える寸前に近かった。確かにそれまで、姉としての愛情を感じることは何回もあったし、実際いなくなると寂しくなるとは思っていたけど、ずっと一緒にいて、ずっと隣で笑っていて欲しい人だと気付いたのは、その時だ。
「そっか〜……まぁ、あんな姉ちゃんとずっと一緒にいたら、そら好きになるわなぁ」
提督はそう言って、僕を見つめながらニヤッと笑う。なんだかお風呂あがりの姉ちゃんを見てドキドキしてたこととか、膝枕されて頭を撫でられてたこととか……そういう思い出を見透かされているような気がしてなんだか恥ずかしい……
急にドアが開き、大淀さんが入ってきた。大淀さんは縦長の15センチぐらいの大きさのダンボールの小箱を小脇
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ