第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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一気にそれを飲み干した。テーブルに置いた空になったグラスを見下ろしながら、少女は口を開いた。
「あなたに仕えるわ」、と。
「あなたのことだから、気付いていたんでしょ。わたしがあなたに劣等感を抱いていたことを。父があなたの父に感じていたように、わたしもあなたに劣等感を感じていた。魔法も、人望もわたしはあなたに敵わなかった。だから、この結果は当然なのよ。冠は正統な者の頭へと戻ったのよ」
懺悔するようにグラスを見下ろしながら呟くイザベラを見つめていたタバサは、自身の手に持つグラスをイザベラと同じように一気に飲み干した。
空になったグラスをテーブルに置くと、イザベラが手を伸ばしタバサの手を取った。そしてかつての仇敵である従姉妹の手へと接吻をした。自然と二人は近付き、抱擁をした。それはまだ何処かぎこちない形だけのものであったが、二人は触れた相手の暖かさを互いに感じていた。
抱擁が終わり、離れた二人が俯くと部屋の中に沈黙が満ちる。
所在無さげにイザベラが身体をもじもじと動かしていると、タバサが小さくイザベラの手を引いた。
「ついてきて」
「ちょ、ちょっと? ど、何処へ連れてくつもり?」
「……あなたに会わせたい人がいる」
「会わせたい人って……?」
困惑しながらも手を引くタバサに逆らう事なくついていき辿り着いた先は、プチ・トロワの奥に設けられた離れであった。
離れの玄関には一人の兵士が歩哨を行っていた。タバサに気付いた歩哨の兵士は一礼すると、設置されていた呼び鈴を押した。直ぐに玄関の奥から返事があり、扉が開かれた。玄関の向こうから姿を現したのは、一人の老執事であった。
「おお、これは陛下。一緒にご夕食をと、奥さまはお待ちでございますよ」
「ペルスラン、一人お客が増えたから、もう一席用意して」
「お客さま、ですか?」
首を傾げたペルスランが、タバサの後ろに立つ少女の姿を目に映すと、その目を大きく見開かせた。
「これは―――! まあ、なんとも驚きましたな……」
はぁ……と深く息をついたペルスランは、胸の前で何度も聖具の形に印を切った後、確かめるように視線をタバサに向けた。ペルスランの「本当によろしいのですか?」という無言の問いかけに、タバサは小さく頷いてみせた。
タバサの返答に、小さく苦笑したペルスランは、頭痛を耐えるように皺が寄る眉間に手を当てると小さく諦めたような声音で呟いた。
「―――……まあ、確かに今更ですか」
チラリと離れの奥へと視線を向けたペルスランは、タバサとイザベラを迎え入れた。
タバサの後ろをついていくイザベラは、何となく向かう先にいるだろう人物について予想がつき始めていた。奥へと続く廊下を歩くにつれ、心に描いた人物の姿が鮮明になり、胸の奥の心臓は
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