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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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そうよ、憎まれ殺されるだけに十分な辱めをお前は受けたはずなのにっ! なによ!? 理由がないって!? この期に及んで何を気取っているのよっ!」

 髪を振り乱しながら叫ぶイザベラをじっと見つめ続けるタバサ。無言で見てくるタバサに、少しばかり落ち着きを取り戻したイザベラがタバサに疑問の視線を向ける。

「―――何か言いなさいよ……」
「わたしには味方が必要」
「なに、言ってるのよ、本当に……? 味方? 必要? なに? わたしにお前の味方になれって言うの? は、はは……冗談一つも言わないとばかり思ってたけど、勘違いだったようね。何よ、言えるじゃない。最高の冗談よ、味方になれだなんて。父を殺し、冠を奪ったお前の味方になれるとでも本気で思っているの? ばっかじゃない……はは、本当に、ばか……はは、はははは、ハハハハハハハハハハ―――」

 イザベラの口から漏れる小さく笑い声は次第に甲高い笑い声へと変わっていく。狂気さえ感じさせる甲高い耳障りな笑い声が部屋の中に響くが……、次第にそれは小さなすすり泣きへと変わっていった。

「―――知っていた……はは……違う……わかっていたのよ」

 未だ涙を流す瞳でタバサを見るイザベラは、掠れた声で絞り出すようにして言葉を紡ぐ。

「エルフと手を組んで恐ろしい兵器を作っていたことだけじゃない……あの人が今までどれだけの人の命を、心を弄んでいたか知ってた。その中には、あなたの両親もいたことも……謀略であなたの父を殺し……我が子を守ろうとしたあなたの母の心を狂わせた……まるで悪魔のような人……きっと人らしい情愛なんて、欠片も持っていなかったのでしょうね……だから、もちろん知っていたのよ……わかっていたのよ……昔から、そう、ずっと幼い頃からわかっていたのよ……実の娘のわたしすら、あの人は全く愛しても……興味もなかったって…………」

 すっ、と一粒の涙がイザベラの頬を伝う。
 目を閉じたイザベラの目尻から最後の涙が頬を伝い、あご先から床へと落ちる。



「でも……それでもあの人は―――」



 ゆっくりと瞼が開き。
 涙に瞳を濡らしたイザベラは、



「―――わたしの父だったのよ」

 
 
 そう言って、儚く笑った。
 









 プチ・トロワの居室に、二人の少女が向かい合って座っている。
 二人の少女の前には、赤いワインに満たされたグラスが置かれている。
 無言のまま時が過ぎる中、一人の少女がグラスを手に取り、ソレを掲げるように持ち上げた。 
 手に掴んだグラスに満たされたワインの向こうに、二つの月が浮かんでいる。
 呆けた眼差しで長いことグラス越しに赤く染まった月を見つめていたが、諦めたように小さいが深い息を着くと、少女は
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