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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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隠れていたところを発見し、捕らえました。修道院に隠れるとは、なるほど考えたものですが、流石の神の御威光もこの娘の性根を隠し切れなかったということでしょう」

 シルフィードに頷きながら、カステルモールがイザベラの両手を縛るロープを引っ張ってみせた。ぐいっとロープを引かれ、体勢を崩したイザベラが憎々しげに部屋にいる者を睨みつける。その強烈な視線の向けられる先には、感情を露わにするイザベラとは真逆に何の表情を浮かんでいないタバサの姿があった。屈辱にギリギリと歯を鳴らしながらタバサを睨みつけてくるイザベラの目には、憤りが燃え滾っていた。
 つい先月までは想像も出来なかった光景。
 今までタバサを虐め抜いてきたイザベラの胸中は、荒れに荒れていることだろう。
 そんな今にも噛み付いてきかねないイザベラの姿に、しかし、タバサは嘲りも怒りも見せる事なく、何時もと変らない冷たい氷のような眼差しを向けるだけであった。

「この娘のお裁きについては、陛下の思うがままになされてくださいませ。それでは、わたしは失礼します」

 タバサに一礼したカステルモールが部屋を退出する。
 支配者(タバサ)支配される者(イザベラ)が部屋に残される。女官姿のシルフィードの姿もあり、その光景はかつての部屋の姿のようであった。その配役が真逆ではあったが。
 暫くの間無言の時間が過ぎる。何時も空気を読まない発言をするシルフィードも、部屋の中に漂う緊張感を感じられるだけの野生は残っていたようであり、口をつぐんでいた。

「……っ、殺せばいいじゃない」

 まず最初に口を開いたのは、イザベラだった。
 吐き捨てるように「殺せばいい」と口にしたイザベラは、髪を乱しながら顔を上げると、タバサを睨み付ける。

「ほらっ! 何とか言ったらどうだッ!! 修道院で聞いたっ! お前が父の仇を討ったとッ!! なら簡単なことの筈だっ! 父と同じように、その娘も殺してみせればいいっ!」

 ドロドロとした煮詰めたタールのような憎悪が混じった声に、直接言葉を向けられていない筈のシルフィードの背中が粟立った。どうしようどうしようとばかりにイザベラとタバサの顔を交互に見るシルフィード。シルフィードの気遣わしげな視線を向けられるタバサだったが、イザベラの憎悪に塗れた言葉を浴びせられながらも、全く動じた様子も見せず、平然とした顔をしていた。

「何を黙っているっ! 父から冠を奪ったその手で、娘の首も取ればいいッ!!」
「―――ッ!? さっきから一体何を言っているのねッ! お姉さまがい―――」

 イザベラの言動に怯えていたシルフィードであったが、流石の言いように抗議の声を上げようとするが、それは杖を掲げたタバサの動きに遮られた。杖を掲げるタバサの姿に、シルフィードもイザベラも口を
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