第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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時の匂いを、身体をなぞる様に触れた自分とは違う指先を、自分でも触れたことのない場所へと触れる彼の唇を―――そして―――。
―――ッッ。
自分の意思とは関係なく、全身に力がこもり、小さな電流が身体を走る。
軽く開かれた唇から姿を見せた小さな舌先が、興奮と快楽に赤く染まり、細く震える。
僅かにベッドから離れた位置でピンと張った足先が、ふるふると揺れ、どさりと落ちた。
荒い息を落ち着かせながら、深い眠りから覚めた時のような気怠い身体をゆっくりと動かし、仰向けらうつ伏せに変わる。
ベッドに押さえられた眼鏡が瞼に張り付き、冷たい感触と不快な圧迫感を感じる。
しかし、眼鏡を外す動きさえ面倒に感じ、うつ伏せのまま動かない。
最近の激務からの疲労と、先程の運動により、鉛のような倦怠感に全身が浸っている。
もう、このまま寝てしまおうかと思うタバサだったが、鼻に感じる独特の臭気に、何時やってくるかわからない感覚の鋭いあの子にバレたら厄介だと、『このまま寝てしまおう』という誘惑に鞭を打ち身体を起こした。
ベッドの上を這いながら、立てかけていた杖を掴み風で部屋の中に漂っていた匂いを窓から外へと追いやる。
後はシーツをどうにかするかとベッドの上で膝立ちしてシーツの一部、濡れたそこを見ていると、
「きゅいっ! お姉さまっお姉さまっ! はいどうぞ、なのね! お姉さま、何時もベッドでゴソゴソした後水を飲んでいたのね! だから今日は準備していたのね!」
「…………」
奥の間から、ドタバタと騒ぎたてながら人影が現れた。その人影は、水が注がれたグラスを盛大にこぼしながらタバサへと駆け寄ってくる。ベッドの上、微動だにせず、石像と化したタバサの前までやってきたその人物―――シルフィードは、女官のお仕着せで身を包んだ己を誇示するように胸を張ると、手にもった殆んど水が溢れてしまったグラスを突き出してきた。
「ほらね! 飲むのね!」
「…………………………………ら」
褒めて褒めてと言わんばかりに目を輝かせるシルフィードに対し、避けるようにタバサは顔を俯かせている。ぐいぐいとグラスをタバサに押し付けていたシルフィードだが、虫の音のように小さな声が耳に届くと、小首を傾げその声の主に疑問を示す。
「? なにか言ったのね?」
「……つ……から」
シルフィードの傾げた首の角度が深くなる。
「お姉さま! 良く聞こえなかったのね! なんて言ったのね!?」
「い、つから、いた……の……」
「ずっとね! ずっといたのね! お姉さまが部屋に入ってくる前から! ベッドの上でごそごそしている間もずっといたのね!」
やっとこさ聞き取れた内容に対し、どんっと胸を張って答えるシルフィード。
ふんすふん
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