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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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つけたタバサは、無造作に冠と無駄に豪奢な女王としての被服を脱ぎ捨てる。シワになることを気にする事なく、脱ぎ捨てた服を床に放置したまま、用意されていた動きやすい部屋着に着替えたタバサは、ベッドに倒れこむようにしてその身体を投げ出した。ごろりと転がり、うつ伏せから仰向けになると、ベッドの天蓋の細かな飾りが目に映った。そして、顔をそのままに、横目でテーブルの上に置いた王冠を見る。

 自分が選んだ道を……。
 
 不意に、寂しさが身を襲った。
 ここには、豪奢な建物が、広く綺麗な部屋が、柔らかで暖かなベッドがある。
 付き従い忠誠を誓う多くの家臣がいる。
 自分の意志一つで動く軍がある。
 読んだことのない入手困難な本が数え切れないほどある。
 およそ人が思い至る望むもの全てが自分の手のうちにはある。
 しかし……本当に欲しいものは一つもなかった。
 本ばかり読む自分を呆れた声で、しかし親しみを込めた声で名を呼ぶ親友が、何時も騒がしく、見かけるたびに何かしらの騒ぎを起こす友人たちが―――そして何より―――。

「―――シロウ」

 彼が、いない。
 小さな震えた声で、彼の名を呼ぶ。
 捨てられた子犬のように細かに震える身体を抱きしめ。大きなベッドの上で、胎児のようにまるまった姿でタバサは、瞼を閉じ想い人に焦がれた。
 最近、ベッドの中で彼の姿を思い出すと、自然と彼に触れられた記憶が蘇ってしまう。
 自分()とは違う、硬く厚い指に触れられた記憶。
 初めて知った、未知()の味を。
 愛されることと、愛することを……。
 いけない事だと思いながらも、どうしても止められない。
 蘇る記憶に、寂しさに凍える身体の奥に、熱が宿る。
 小さなそれは、次第にその熱量を上げ、ゆっくりと身体に広がっていく。

 ―――っ、ぁ……。

 濡れた熱い吐息が、僅かに開いた唇から溢れ落ちる。
 どんどんと上がる熱量が、身体を侵食していく。
 下腹部から生まれたその熱を押さえ込むように、熱の生まれるそこへと、揺れる指先が伸びる。

 ―――っ、ん……ぁ、っ。

 押しては引く、波のように、身体の中を、粘性を持ったナニカが満たしていく。
 ソレは既に頭にまで至り、思考に霞が掛かる。
 身体を満たすソレは、遂には身体の外へと溢れ出ていく。

 ―――ッ。

 濡れた、音が耳に届く。
 粘性を帯びたその音。
 熱を持つ身体。
 次第に、動きが激しくなる。
 記憶をなぞるように、指が動く。
 しかし、足りない。
 長さも、太さも、何もかも足りない。
 届かない。
 だから、思い出す。
 鮮明に。
 まだ、片手で数え切れる程の思い出だけれど、今の自分には十分だ。
 思い出す―――抱きしめられた
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