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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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、こんな事をされることは―――。
 混乱の最中、頬にざらついた感触を感じる。
 微かに視界の端に入ったそれは、青い髭であった。
 ふと、幼少の頃、遠くから見た父の姿を思い出す。
 多くの家臣に囲まれている父を、柱の影から隠れて見た父の姿。
 その時、立派な父の髭を触りたかったことを思い出す。
 大国の王の髭に触る。
 誰しもが出来ることではない。
 それは、家族の特権。
 しかし、結局一度も触れる事は出来なかった。
 瞬間。
 心臓に握りつぶされるような鈍い痛みが走る。
 全身が、燃えるように熱い。
 鼻の奥に鋭く痛み、目頭がカッと熱くなる。
 気付けば、両腕が動いていた。
 硬く大きな身体を強く、強く抱きしめ。
 ―――溢れ出す。



「ちち、うえ―――ちちうえっ―――ちちうえっぢぢうえっ! ちぢうえ゛ぇ゛ッ!!」



 泣き声が、響く。

 少女の泣く声が。

 喜び、悲しみ、怒り―――様々な感情がごちゃまぜになった父を呼ぶ声。

 それは、長い年月を経て、やっと父と出会えた、幼い子供の泣き声のようでもあった……。
   
 


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