第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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痛い程高鳴っていく。
そして離れの奥―――廊下の先にある食堂に着いた。
淡いロウソクの炎に照らされた食堂には、美味しそうな料理の香りが漂っていた。
ペルスランとタバサはさっさと食堂へと足を踏み入れるが、イザベラは廊下と食堂の堺で足を動かせず立ち尽くしていた。この食堂にいるだろう人物と会う事を恐れ、足が動かなくなっていたのだ。様々な葛藤が胸の中で渦巻き、一歩も動けないイザベラ。遂にはこのまま引き返そうかと考えてしまい、一歩足を後ろに動かしたイザベラを止めたのは、引き返してきたタバサの手であった。不安に震えるイザベラの手を掴んだタバサは、一気に手を引いて食堂へとイザベラを引き入れた。たたらを踏みながら食堂に足を踏み入れるイザベラ。
「あ―――ま、待って」
「待たない」
イザベラの手を引きどんどんと食堂の中を進むタバサの足が止まる。
急に足を止められ、転げそうになる身体を必死に押しとどめたイザベラが、抗議しようと顔を上げると、食堂の中心に置かれたテーブルの上座に座る人物と視線があった。
思わず口を噤み、立ち尽くすイザベラへと、その人物は口を開いた。
「あら、素敵なお客さまね」
手を叩き笑うその顔を見たイザベラの全身が震えだす。イザベラの予想はやはり間違ってはいなかった。食堂で待つその人物とは、かつて自分の父が毒を呷らせたタバサの母であるオルレアン公夫人であった。
しかし、オルレアン公夫人はイザベラが以前見た毒を呷ったことで心を狂わせ、やせ細った幽鬼のような姿ではなかった。骨が浮くほどやせ細った身体は、未だ細いが以前と比べられないほどふくよかになっており、何処を見ているのか判然としない瞳には、ハッキリとした意思が見て取れた。立ち居振る舞いやその身に纏う雰囲気にすら、高貴さを取り戻していた。
愕然とした顔で、イザベラはオルレアン公夫人を見つめる。
事情を知らず、以前の狂った姿のままと考えていたイザベラにとっては、予想外に過ぎた姿であった。
そう、タバサはリュティスに凱旋した折、ビダーシャルに薬を調合させ、それをもって母の心を取り戻していたのだ。
未だ驚きが抜けず立ち尽くすイザベラに上品に小さく笑みを浮かべながらも、オルレアン公夫人は自らの手で姪のため椅子を引いてみせた。
「ほら、座りなさいイザベラ。立ったままじゃ食事も取れないわ」
「お、叔母上……」
胸に切り裂くような痛みを感じ、心臓の辺りを握り締めながら、イザベラは怯える声を上げた。
叱られるのを恐れる子供のように不安気に見上げてくるイザベラに、オルレアン公夫人は困ったように笑うと、引いた椅子へと手を向ける。
「はい。その通りわたしはあなたの叔母ですよ。さあ、何時まで立っているつもりですか? 早くお座りなさい。料理が冷め
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