第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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止めると、貴族たちに風を吹かせながら、黙々と石工たちが造り上げる建造物を見つめる。
現在建造中のこれらの完成をもって、このヴェルサルテイルで大規模な園遊会が催される予定であった。
その園遊会では、各国から大々的に客人を呼び、正式に自分の即位をお披露目するのである。
その中には、トリステインのアンリエッタ女王と、ロマリアの教皇ヴィットーリオも含まれる、そして……。
唐突に立ち止まった主に怪訝な視線を向けてくる延臣たちを無視して、タバサは足をプチ・トロワへと向けた。
プチ・トロワ―――そこに以前の主である王女イザベラの姿はない。タバサがリュティスに入城した時には、何処かへその姿を消してしまっていたのだ。とは言え、見つかるのも時間の問題だろう。ジョゼフ―――前王派と目された貴族たちは、オルレアン公派の貴族たちが見つけ次第のキマに投獄されたり地方へ追いやられたり、又は閑職へ回されたりしていた。これは別にタバサがそう命じたわけではない。長年不遇を受けていたオルレアン公派の貴族たちが自発的に始めていたのである。
タバサはそれを止めないのは、止める理由がないだけであった。目に余るものがあれば、タバサは止めただろうが、今の所そういったものは見られない。そのため、暫くは様子を見ていようと判断したのである。
しかし、そんな中でも、最も狙われていたはずの王女イザベラだけが、まだ見つかってはいなかった。
プチ・トロワの玄関先に辿り着いたタバサは、付き従ってきた延臣たちに解散を告げた。解散を告げられた延臣たちは、各々頭を下げるとそれぞれバラバラに歩き去っていった。その中には、勿論バリベリニ卿の姿もあった。
タバサは去っていく臣下たちにさっさと背を向けると、プチ・トロワの玄関をくぐり居室へと足を向けた。
居室に到着したタバサは、何気なく部屋の中を見渡す。
変らない。
ふと、そんな言葉が脳裏に過ぎる。
この部屋には、何度となく訪れたことがあるが、別段じっくりと見たことはなかった。しかし、それでも無意識のうちの記憶に残る程にタバサはここに通っていた。明日命の知れぬ命令を受けるために……。
その頃には、自分がこの部屋の主になるなど欠片も思いもしなかった。
何となく感慨に耽ったタバサが、部屋の中をゆっくりと歩く。
家臣の中には、タバサがここでどういった扱いをされていたか知る者がおり、調度品から内装まで全て変えては、と言うものは幾人かいた。しかし、タバサはその言葉にうなずかなかった。特段の理由があるわけではない。ただ無意味だからだ。家具を変えようと、記憶が、過去がなくなるわけでもない。それに、別にタバサはここでの思い出を忌避する気持ちなどなかった。
目を一度閉じ、取り留めのない思考に区切りを
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