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逆さの砂時計
オペラセリアのエピローグ 5
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来なかったら置いてくぞ」
 「はい」
 彼女は今、許可証の類いを所持していない。無くても空間を跳べば入れるが、人目に付く可能性がある場所は極力避けたいと、自身でも言っていた。特に大きな街や都では別行動もやむを得ない。
 少女を暗闇に一人置き去るのは抵抗を感じるが……とにかく急いで用事を済ませて戻ろう。
 小走りで承認待ちの列に加わり、少々手間取ったが、無事に都市へと踏み込む。
 石造りの三階建て集合住宅が中心なのかな。何らかの防水措置が施されているだろう屋根だが、見た目はただの少し厚い木材だ。白と薄茶色で統一された街並みは、何処か温かさを感じさせる。
 しかし、この時間帯にしてはやけに人が多い。何だろうと聞き耳を立ててみれば、薄緑色の雪がどうこうと噂が行き交っている。
 ……忘れてた。ロザリアが迂闊に人間世界へ近寄れない理由の一つ。契約変更時、世界中に降らせただろう雪があったんだ。
 あれがおかしな騒動を呼ぶ切っ掛けにならなければ良いけど。
 「ようこそ、アルスエルナのクロスツェル神父。我々バーデルの信徒は貴方の来訪を歓迎します」
 「ありがとうございます」
 「現在、大司教様はアリアシエルへ赴かれていますので、次期大司教様にご挨拶をお願いします」
 「心得ました」
 バーデル王国は大戦後アリア信仰にも門を開いたが、友好関係が良好かと言えば、そう上手く転がる話でもないようだ。都市の隅に少し大きめな土地を預かっているくらいで、その規模はアルスエルナ王国中央教会の半分にも満たない。地方教会級かな。それでも中央教会には違いない。
 人手不足気味な地方教会では滅多に設置されない「受付」の信徒に許可を貰い、目指すは次期大司教様が居る礼拝堂。
 教会の構造は、私が預かっていた教会とほぼ同じだ。アリア信仰の枠内で設計されていれば当然だけど。
 大きく開いた扉を潜り、二列ずつ左右対称でずらりと並ぶ三人から五人掛けの長椅子六脚に挟まれた赤い絨毯の上を、祭壇へ向かって真っ直ぐに歩く。
 「……?」
 私自身、他国の信徒とは交流を持つ前に地方赴任した。バーデルの現大司教様とも次期様ともお会いした事は無い……筈なのに。
 全身白装束の男性が、低い階段の上から私をじっと見ている。
 探られてる、のか?
 「お名前は?」
 少し掠れた低い声。
 「クロスツェルと申します」
 「クロスツェル。貴方はバーデルの生まれではありませんか?」
 黒色は移民の血統だし、髪を見れば想像は容易い。
 が、彼が見ているのは髪ではなく目……な、気がする。
 私の虹彩部分は父親譲りの金色だ。目の色を見てバーデルとの繋がりを連想するとは思えない。
 次期様は何故、私の目を見てこんな事を尋く?
 「確かに、その通りですが」
 「! では、私の顔に見覚え
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