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逆さの砂時計
オペラセリアのエピローグ 5
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音を確かめて……泣いてる?

「良かった……いや、じゃなくてっ、紛らわしい顔色してんじゃねーよ! なんだってこんな場所で寝転がってんだ、てめぇは!!」
「すみません」

 どうやら、相当心配させてしまったらしい。
 上半身を起こしたロザリアの表情は、焦りと怒りと安堵と……
 複雑すぎて表現が難しいな。
 とにかく、涙でぐしゃぐしゃだ。

「私が私だと自覚する為に、冷静さがどうしても必要だったんです」
「は?」
「先ほど、玉座の間でレゾネクトに手を差し出していたでしょう? あの時彼に、アルフリードさんの記憶を植え付けられそうになっていたのですよ。正確に言うと、存在の書き換えでしょうか」
「はああ?」

 なんだそりゃと、眉間に何本もの深いシワを刻むロザリア。

 ええ、解りませんよね。
 私も説明が難しいです。

「レゾネクトには全然自覚が無かったみたいなのですが、『鏡』の力で私にアルフリードさんを、つまりはレゾネクトの認識上で『亡いもの』を、私に映して『在る』という事実に置き換えようとしていたんです。あと少しでも粘られていたら、私はアルフリードさんになっていたかも知れません」

 アルフリードさんの意思の強さは尋常じゃなかった。
 中でもマリアさんを求める想いは、自分のロザリアへの想いに同調して、なお遥かに上回るもの。
 『鏡』の力を防げる『彼女』の力と、レゾネクト自身に生じていた迷い、私自身が抱いた怒りとアルフリードさんの『願いに変わった最期の諦め』が無ければ、心も体も瞬く間に乗っ取られていただろう。
 本当に危なかった。

「ああ……。だからあの時、お前の目の色が変わってるように見えたのか。別人になりかけてたから……ってぇ! 何しやがるんだ、あのクソ親父! 滅茶苦茶するにも限度ってモンがあんだろ、限度ってモンが!」
「まったくです。悪魔でも神でも人間でも、誰かへの想いには際限が無くて厄介極まりない。解らなくもないのですけどね」
「っ……!」

 ロザリアの唇が、レゾネクトへの憤りで歪む前に。
 自分が持ち上げた右手の人差し指で、そっと押さえた。
 ぎょっとした彼女に微笑み、自分も体を起こして、向かい合う形で座る。

「貴女を導くという約束を、果たしに来ました」

 淡く薄い緑色の目の中で、何も持たない不誠実な黒髪の男が笑う。


「私と結婚してください、ロザリア」


 二人の間に、しばし横たわる沈黙。
 そして。


「…………はいぃい────っ!?」


 ロザリア山が、派手に噴火した。

「ちょ、ちょちょちょっ、ちょっと待て!! 結婚っておまっ! いきなり、それはないだろ!?」

 顔が真っ赤。
 あたふたと泳ぐ視線と両腕が、見事に挙動不審
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