暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
オペラセリアのエピローグ 5
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 太陽が傾き出した。
 もうすぐ、空の色が夕暮れのそれに染まる。
 こうして空を見ていると思い出すな……初めてこの場所に来た日の空も青かった。
 旅の途中、立ち寄った王国の王室専属水晶占術師に『必要不可欠なものが此処に在る』と道を示され、対象が「物」なのか、場所柄「言葉」なのかも教えられないまま国王陛下直々の手続きを経て訪れて。
 そう……そうしてマリアに出逢ったんだ。
 何も知らずに護られ、ただ役目を全うしていた純白の翼の(かんなぎ)に。
 遠目の第一印象は、ただの綺麗な女神様。実際に触れたら、臆病な女の子。言葉を交わしたら、必死で健気な女の子。心を交わしたら……誰より弱くて強くて真っ直ぐで優しい、大切に護りたい女になった。
 俺の話をした夜に「必要不可欠なものとは、この子なんだろうか?」って少しだけ思ったんだ。神々の指示でマリアが仲間に加わって神殿を出ても、まだ半信半疑で。
 確信したのは、焼けた村跡で彼女が俺に掛けてくれた言葉「私を護ってください」を聞いた瞬間。
 助けてと(すが)る声も腕も、たくさん見て聞いて感じてきた。
 その中で唯一、護ってと言いながら俺を護るように包み込んでくれた細い体が……「辛いなら辞めても良い」じゃなく、「一緒に戦うから、貴方は一人ではない」と受け入れてくれた柔らかな熱が、どうしても手放したくないものに変わったんだ。
 俺にとって「必要不可欠なもの」は「マリア」だった。

 ……違う。
 これは私の記憶ではない。
 私がこの場所を訪れたのは、夜明けより少し前の頃。
 不思議な光によって意識だけが海の中へと招かれ、少女の声と話し、気付けば朝の青空や木々の緑やベゼドラを視界一杯に捉えていた。
 だからこれは、私とは別の誰かの記憶。かつて生きていた誰かの想い。
 「アルフリード……それは貴方の名前ですね。私はクロスツェルです。孤児のレスターに与えられた道を自ら踏み外した、愚かな元神父のクロスツェル。後悔どころか現状にとても満足している、救いようが無い莫迦男のクロスツェルです」
 石床に背中を預けた体勢で目蓋を閉じ、深呼吸を繰り返す。
 漸く落ち着いてきたかな?
 今回もぎりぎりだった……。「彼女」が力を貸してくれていなければ、今頃はレゾネクトに
 「クロスツェル!!」
 「……ロザリア?」
 長衣の袖を引き千切る勢いで伏せた少女が、私の体に覆い被さる。
 心臓の音を確かめて……泣いてる?
 「良かった……紛らわしい顔色してんじゃねーよ! なんでこんな場所で寝転がってんだ、てめぇは!!」
 「すみません」
 どうやら、相当心配させてしまったらしい。
 上半身を起こしたロザリアの表情は、怒りと安堵と……複雑過ぎて表現が難しいな。
 とにかく涙でぐしゃぐしゃだ。
 「私が
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ