05.姉ちゃんの声
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「で、でも、それならすぐに救援に向かわないと!!」
そうだ。作戦が失敗したのなら、すぐにもう一度出撃しないと……じゃないと姉ちゃんが……
不意に、オシロスコープのような通信機から、ピーピーという発信音が鳴った。提督は左手のひらを僕に向けて僕たちを制止し、通信機のマイクを取る。
「鎮守府だ」
『こちら比叡です!』
……姉ちゃん!!
「比叡か。その後どうだ」
『今のところはなんとか。でも相手は複数の艦隊で波状攻撃で攻めてきて、休むヒマを与えてくれません……燃料も弾薬も残り少なくなってきました……』
姉ちゃんと提督の声だけが、執務室に響き渡る。懐かしくて、聞くだけで涙が出るほどうれしいはずの姉ちゃんの声のはずなのに……ずっとこの日を待っていたはずなのに、うれしさじゃなく、不安と焦燥感だけが胸に去来する。
提督は姉ちゃんからの報告を聞きながら僕の方を見て、左手で僕を手招きする。
「比叡。昨晩出発した救援隊は、先ほど全員大破で戻ってきてしまった」
『やっぱり……私を囲む敵艦隊、強くなってるんです。今は小島の影に隠れてますけど、このままでは見つかるのも時間の問題で……』
「心配するな。すぐに再度艦隊を編成して救援に向かう。今日の夕方まで耐えられるか?」
『分かりません……こればっかりは……』
「耐えられると言え。じゃないと、お前の帰りを待ってる人が大勢いるんだ」
『私も帰りたいですよ! でもどんどん攻撃が激しくなってきて……』
提督がマイクを僕に渡した。僕は震える手でマイクを受け取り、口に近づける。
「そのボタンを押しながら話すんだ」
耳元で提督にそう言われ、僕は恐る恐るマイクの側面に付いたボタンを押し、震える喉から声を出し、姉ちゃんに呼びかけた。
「姉ちゃん」
『……え? ……シュウくん?』
シチュエーションさえ無視出来れば、この数カ月間、僕が心から待ちわびた瞬間だった。姉ちゃんが僕の名前を呼んでくれた。ゲームの定型文なんかじゃない。一緒に暮らしてきた姉ちゃんが、また、僕の名前を呼んでくれた。
「うん。こっちに来たよ」
『……ホントに? ホントにシュウくん?』
「うん。あきつ丸さんに連れられて、岸田と一緒にこっちに来た」
『シュウくん……よかった……また……また声が聞けた……』
「うん……姉ちゃん……僕も……声が聞きたかった……ずっとこの日を待ってた……」
無線機の向こう側から、ぐすっという鼻をすする声が聞こえ、姉ちゃんが泣いているのが分かった。僕も胸が一杯になり目に涙が溜まってくる。この瞬間を、ぼくたちはどれだけ待ちわびたことだろう。この日が現実になる日を、どれだけ待ち焦がれただろう。この無線の向こう側には、姉ちゃんがいる。姉ちゃんと
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