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大海原でつかまえて
05.姉ちゃんの声
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提督の声で放送が流れた。その声は、食堂から出て行った二人の歩く死体の片割れとは思えないような、緊迫さが感じられる声色だった。

『金剛とシュウは、大至急執務室に来い。繰り返す。金剛とシュウは大至急執務室に来い。以上』

 僕と金剛さんは顔を見合わせた。僕はもちろん、金剛さんもきょとんとしている。

「何でしょう?」
「何デスかねー……」

 執務室に到着すると、そこにいたのは提督と岸田と大淀さんの3人。大淀さんはオシロスコープのような通信機で誰かと通信している。提督と岸田は朝の生ける屍と同一人物だとは思えないほど、真剣な顔をしていた。

「テートク〜。来たヨ〜」
「ああ。ちょっとマズいことになった」

 提督がそう言い終わるか終わらないかのところで、大淀さんが会話に割って入る。

「提督、救援艦隊、無事帰投しました」
「了解した。報告はいらん。先に傷が酷い者から順に入渠をさせろ。全員に高速修復剤の使用を厳命する」
「了解しました。全員、高速修復剤を使用して入渠させます」

 大淀さんはそう言うと執務室からカツカツと出て行った。大淀さんの歩くスピードから、比叡姉ちゃんは救援部隊と一緒には帰ってこれなかったんだということが、なんとなく分かった。

「岸田、何かあったの?」
「ああ。提督、言っていいか?」

 岸田がいつになく深刻な表情で提督を見る。提督は岸田に無言で頷き、岸田もそれを受けて真面目な顔で僕に答えた。

「落ち着いて聞けよシュウ。昨日出撃した救援部隊が、比叡たんを奪還どころか、比叡たんに辿り着く前に全員轟沈寸前の大破で戻ってきた」
「What?!」

 今一状況が読み込めない僕よりも、金剛さんの方が早く反応した。

「金剛さん金剛さん」
「ハイ?」
「どういう状況なの?」
「シュウくんと別れた時の比叡、傷だらけだったデショ?」
「うん」
「艦隊の六人全員が、あの状態で戻ってきたんデス」

 そんなバカな?! 救援部隊の6人は手練だったはずなのに!!

「確かに手練だ。だが比叡がいる海域を守るように、めっぽう強い潜水艦隊がいたようだ。あの海域は潜水艦タイプの深海棲艦との遭遇はほぼゼロに等しい。俺も油断していたよ……」

 提督が苦々しい顔をしてそういう。

「妙高たちとビス子と赤城の編成なら、大抵の相手には負けない。だが潜水艦への攻撃は不可能だ。加えて潜水タイプの敵との遭遇が極端に少ない海域で完全に対潜警戒がずさんだった上、相手は確実にスナイプを決めてくる手練……やられた……」

 岸田も悔しそうに歯ぎしりしていた。提督という人種にとって、自身が編成した艦隊で作戦が完遂出来ないことは、轟沈で仲間を失う事の次に無念で悔しいことだと、僕は後で岸田から聞いた。


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