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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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めている。
 一番大きな違いは第三軍全体の活躍である。この点においては龍口湾の騎兵聯隊壊滅が大きい、これによって第三軍の反攻は龍爆までは圧倒的優位を維持し続けることに成功した。そして夜間浸透強襲と払暁に主力の呼応により南方を担当していた第21師団を壊乱に追い込み、龍州軍、近衛総軍の撤退を支援することに成功。結果としてこの撤退戦の様相を大きく塗り替えたのだ。
 ゆえにアラノックは油断をしていない。戦略的な目標は皇龍道の打通。そしてそのためにはここで野戦軍を撃滅してしまうに越したことはない。アラノックとラスティニアン率いる参謀組織の判断は至極妥当なものであった。極論してしまえばこれまでの戦いは小細工の余地がない決戦を強要するための圧迫に過ぎなかったのである。
 だが致命的な要素が二つあった、一つはこの時期の〈帝国〉軍に共通する導術――つまり背天ノ業――に対する知識不足、そしてもう一つが――

「先行した龍兵の報告によりますとロクボウカクと呼ばれている未完成の要塞から物資の出入りが確認されています、恐らくは砲の補充の目途があるからこそここまでやったのでしょう」
 ラスティニアンの頭脳は既に唸りをあげて思考を紡いでいく、ユーリアの期待に沿うことは既に不可能に近い、
「これ程の門数の砲を廃棄して後退するのです、龍爆を受けたといえど思い切りがよすぎます」

 ラスティニアンの見る限り門数からして廃棄された重砲は大隊規模の物だ。
後衛戦闘隊は連隊規模である、ならばこれは継戦能力を捨てるということと同義であるとラスティニアンは判断した。そして後衛戦闘を命じられた部隊であれば任務の放棄と同じである、ありえない。
 ならば――どこからか補充する当てがあるに違いない、それはロクボウカクとやら要塞擬きからだ。

 アラノックは腕を組み、ラスティニアンの意見を彼の〈帝国〉軍の軍事的常識から検討する。
「第9師団が接敵した6,000の兵団に4,000の近衛が率いる猛獣使い。そしてこちらの5,000の部隊‥‥」

「閣下、それではなく虎城における戦線構築に着目すべきです、恐らくは」

「伝令! 第9師団司令部より第二軍団司令部へ!本師団の第一旅団、近衛兵、猛獣使いの夜襲を受けたもよう!
敵兵数はおおよそ四千!死者660名、負傷者3.300名の被害を受け再編の為一時後退!ベルジャーエフ閣下は部隊の増強を求めております!
第2旅団及び支援部隊が先行!」

 幕僚達がうめき声をあげた。

「‥‥やはり敵も立て直しているか。あの州都に立て籠もった連中に兵数を割き過ぎたか?」
「閣下、早期に陥落せしめるにはあれが妥当であったと判断します」
 五千もの火力を整えた集団、三千の猛獣使い、そしてこの陣地を使う第三軍の後衛戦闘隊、総数は五千を超えるはずだ
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