第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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「近衛総軍後衛隊に伝達。乗った、と伝えろ」
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擲射砲の砲声が轟く、対岸の白衣の砲兵達が赤黒い内容物を撒き散らして爆散する、ついに接敵したのだ。
「北領だったら橋を落とすだけでも結構な時間が稼げるのだが、そうもいかんな」
あの時はまともな人間であれば凍死しかねない程の厳寒であった。だが今はそうもいかない。だが伏龍川は小苗川よりも川幅も広く守るにも容易い。大街道を外れて渡河をすることもできるが(田園地帯の治水事業の一端もあり)伏龍川の分流が多く、行軍に適しているとはいいがたい。
史沢から五州道に伸びる大街道から分岐した街道が彼らの背後の内王道に合流しているが、これも近衛が抜かれない限りは問題ない。常識的に考えれば玉砕してもおかしくないのだが、豊久はそのような心配はしていなかった。
「急造の陣地だがここで稼がせてもらうとしようか」
「本部より各隊へ 、日没まで粘るぞ、連中が砲列を整えるのを防げ、こちらの消耗を抑えることを第一とせよ」
「銃兵は極力塹壕から出すなよ、〈帝国〉が戦うのは地形と砲であって銃兵ではない。
陣前発起は最低限にしろ、今日は日が暮れるまでさほどない。連中も本格的にやりあうつもりはないだろうよ」
日が暮れるまでは後三刻程度、〈帝国〉軍が燭燐弾を使ってまで戦うというのなら話は別だがそこまでする必要はないはずだ、それに夜戦砲撃戦ならば導術を使えるこちらが優位である。
「連隊長殿、敵さんが渡河しとりますわ」
冬野特務曹長が間延びした口調でいった。
「ん、どれどれ」豊久が視線をやった先では白衣の兵隊共が筏にのって川を渡ろうとしている。
「〈帝国〉軍もこの程度の事で手ぬかりはしないか、当然だな」
擲射砲隊が再び砲声を轟かせる、またも対岸に着弾するが数発は水面から数間のところで炸裂し、川に滋養を撒き散らさせる。
「真室の時のように浮橋を作るつもりでしょう、陣前に杭を立てられたら厄介です。剣虎兵隊を後方待機させたままでよろしいのでしょうか?」
米山副官が警告を発するが豊久は笑みを崩さない。
「今は休ませておけ、今日は敵さんも様子見だ、連中にとっては明日には後続部隊も来るだろうし日没も近い、たった半日程度を焦っても意味はないさ。あれは威力偵察と見せ札だ」
そっと天を仰ぎ、若い連隊長は最後の一言を大気へそっと溶かしこんだ。
「さて、後はどうにか誤魔化せるか‥‥‥」
七月二十七日 午前第一刻 伏沢橋より南方四里
第9銃兵師団〈マクシノマス・ゴーラント〉 第1旅団 ベルジャーエフ准将
第9銃兵師団〈マクシノマス・ゴーラント〉にとってはいささか不快な事があったとしても今この瞬間までは疑いようもなく勝利へと進んでいた。
指
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