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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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の支援により第二軍とそれを追撃する(帝国)騎兵隊以後はほぼ完全に封鎖されている
だが、肝心の集成第二軍は砲兵隊が壊滅し、龍口湾の戦いでは各軍の撤退まで悪戦を続けた所為でほぼ完全に継戦能力を喪失している。そして東州に主力は渡海しており、残余部隊が惨めに追い回されているのが現状だ。

「五州道の騎兵共は、蔵原で再編している主力に対応してもらうしかなかろうよ、あとは近衛頼みだ。俺たちはここで稼げるだけ時間を稼ぐしかない」

「近衛の方がどれほど稼げるか次第だが新城と龍州軍が連携できればあるいは‥‥だが‥‥」

「龍州軍は泉川で火力をほぼ完全に喪失しています、これ以上奮戦を期待するのは酷です」
 主席幕僚の言に後衛戦闘隊司令は唇を吊り上げて頷いた。
「要するに――今の盤面にある四軍のうち、龍州軍、集成第二軍はもはや戦闘不能。
新城直衛近衛少佐殿が率いる近衛総軍後衛戦闘隊は龍州軍が逃げ延びる時間を稼がねばならない。
そしてそれは俺達もまた同じであることは貴様らも分かっているだろう、第三軍まで崩壊したら虎城の防衛線構築の初動は完全に崩壊してしまう」

「要するに、だ。まだ我々も新城たちもこの橋の渡し守を続けるしかないということだ――まともに考えるならな」
 導術の書付に幕僚達の視線がそそがれた
「――近衛少佐殿から、博打のお誘いだ。乗るか、そるか」

「綱渡りは今更でしょう、こちらはまだマシだと思いますが」
 主席幕僚の言葉に幕僚達も苦い顔をしてうなずいた。
「むしろ近衛が成功させることができるのかが問題化であるかと思います。
敗残兵を吸収して数が九千名を超えているなど――とても面倒を見切れているとは思えません」
 石井はむしろ通信先の様相を心配している、それもまた当然ではあろう、まともな将校であればあちらの現状でまともに軍隊として機能しているだけでも驚嘆物だ。実に真っ当な解釈である。
 だが言った対象もそれを告げた相手も悪かったのである。
「おいおい、それを俺に言うのか?新城が率いている部隊を相手に?」
困惑する幕僚達に諦めたような表情の大辺を見て馬堂豊久“大隊長”は肩を震わせ、そして声をあげて笑い出した。

「あぁ畜生!あの馬鹿め!どうしてあいつは!畜生!俺が残ったのに!あの馬鹿めどうしてまだ!」
体を捩り掌で目を覆い、この最前線には不釣り合いな笑い声をあげる若い中佐。窮地に悠然と浮かべる普段の笑みではない、全く異質な――臓躁的なものさえ感じさせるそれがようやく止む。

「あぁそうだろうさ。そうだろうよ、あれはそういう奴だった」
 顔をあげたらそこには常の笑みが浮かんでいた。
「主家の末弟様が好き好んで地獄で遊ぶのなら付き合ってやるのも駒州が臣の務めよ。さて――導術!上砂!」

「‥‥‥はっ!」


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