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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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を向けて細巻きを銜えた。言葉にせずともわかる、お前は剣虎兵部隊の次席指揮官に過ぎない――そう言っているのだ。
控えていた首席幕僚がそっと司令と佐脇の間に立つ、その後ろで副官が燐棒を擦る音がした。立ち去れ、と言外に示しているのだ。
「はっ、失礼します。司令殿」



同日 午前第十刻 伏龍川 集成第三軍後衛戦闘隊 本部 
後衛戦闘隊 司令 馬堂豊久中佐


 豊久は地図に目を向けた。すでに龍前国を抜け、あとは集結予定地である蔵原まで大街道である内王道を駆けるのみ、只管に逃げるのであれば2日程度で蔵原に集成第三軍の部隊を集結させることができる。
 だがそこまでだ、どうあがいても会戦状況で勝てるだけの戦力はない。早急に虎城の要害に立て籠もるしかないのだが――
「大辺、どう見る」
 集成第三軍はまだ多少の混乱はあってもどうにか秩序だって撤退することに成功している。だがそれは第三軍司令部に名将が集っているからでも、〈帝国〉軍が無能であったからでもない。
 龍州軍の泉川籠城戦によって敵の初動を大いに遅らせることに成功したからこそであり、大局的な成果は龍州軍とそれを救った近衛総軍に帰せられるべきものである。
 そして龍州軍の潰走により、敵はついに本格的追撃を開始することになる。
「敵は常道の手を打っています。それで勝てるのですから奇策に走る必要もありません。
主要街道に部隊を集結させ、集結し目障りな後衛隊を踏みつぶし主力を補足、撃破、そして首都まで打通する、以上です」

虎城に至る街道はおおよそ四種に大別できる、北部は皇龍道を利用するものである、皇龍道は虎城を抜ける道としては最もよく整備された大街道であるが、龍州においては龍塞山脈の裾野であり伏龍川の流れも速く、皇龍道自体も橋をいくつも利用する。
それゆえ軍事的観点からすれば大軍の行動には不適切であり、また橋を爆砕すればそれなりの時間が稼ぎやすい、第三軍の一部部隊が橋の爆砕もかねてこちらを利用している。中央部の転進経路は第三軍が利用している龍岡と汎原を結ぶ大龍橋、馬堂豊久麾下第三軍後衛戦闘隊はここに布陣している。 
その十数里ほど南方に、史沢と上泊を結ぶ伏沢橋がある。龍州軍司令部が掌握した部隊がこの橋を利用して渡河の最中だ。新城率いる近衛総軍後衛戦闘隊がいる。伏沢橋からは五州道につながる道と内王道に合流する道がある。

「これで五州道に大軍が、となったら泣くしかないな」
「あちらで〈帝国〉軍が動くのならば水軍から通報があるはずです。それに葦川には水軍の陸戦隊と河船が出張っているはずです」
「河船はともかく陸兵団もか?」

「水軍の監視を抜ければどうにもならないわけだがね、第二軍自体北領の二の舞――まぁそれはいい」
最南部には五州道がある。沿岸地帯であるため〈皇国〉水軍
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