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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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一大隊長殿をお連れしました!」
 後衛戦闘隊司令部と名を変えても実際は独立混成第十四聯隊本部のままである。
 多くの将校と下士官達が報告書やら地図やらを抱えて行き来しており、その様子は外とさして変わらない。
「御苦労、桐坂中佐殿のご機嫌はどうだった」

「はい、砲の配置には手間取っておりますが おおむね悪からずといったところです」

「あの御仁がここじゃ一番偉い先任中佐殿だからゴマをすっておけよ」
 そういうと幕僚達の中心にいる中佐の階級章をつけた青年は少々やつれた顔を佐脇に向けた。
「御苦労だった、佐脇大隊長。敵主力部隊を後退に追い込んだ貴官と大隊全将兵の奮闘に感謝する。作戦目標は達成できたのは貴官と将兵達のおかげだ」

「はい、司令殿」

 佐脇は眉を潜めた。上官ではあったが佐脇は駒城家重臣団としては目上の存在だった筈だ、だがそうした気遣いが感じられなくなっている。

「流石は本領軍、正面から戦えるものではないということだな。よもや第十一大隊が半壊するとは‥‥馬堂の兵達にも随分と血を流させてしまったようだ、第十一大隊の兵にも戦の常とはいえ辛い役を任せることになった」
 その時、佐脇は違和感の原因を一つようやく理解した。佐脇利兼が知る馬堂豊久は常になにかしら感情を示していた。だがこの時の“馬堂中佐”は驚くほど虚ろな声色であった。
「誠に申し訳ないが、第十一大隊は一時的に聯隊鉄虎大隊の指揮下に入ってもらおう。
部隊の現況から応急の再編成だ、棚沢大隊長とよく相談するように」
 佐脇は――息を飲んだ。要するにおまえはここまでだ、と言っているのだ。
「で‥‥ですが‥‥」

「独立して動ける部隊を手放したくない、と」
豊久はニコリ、と笑った。
「わかる。わかるとも。君も努力して大隊長になったわけだからね、だがねぇ――部隊の現状を鑑みたうえで判断してもらいたいな、それにさ――現実的に考えてみたまえ。
もう無理だろう? 第十一大隊の単隊戦闘は」
 
「ホント、困ったものだよ、後衛戦闘隊としても手痛いものだ」

「‥‥」 佐脇は沈黙を続けるしかない。処分ではない、棚沢少佐は先任であるのだから妥当な人事ではあるのだろう、だが――

「だがな、佐脇大隊長。大隊一つで敵の主力を後退に追い込んだ事は紛うことのない大戦果だ、この功績は間違いなく君の物である事は私が確約しよう。
君のおかげで第三軍の主力は伏龍川の渡河に成功し、作戦目標は達成できた、それで十分だ ――今は、ね」

 背後に控えていた米山副官が差し出した書類にサインをし、佐脇に差し出した。
「これで正式に発令、と。佐脇大隊長、御苦労でした、後の事は棚沢大隊長と協議してください」

 露骨に興味を失ったと示すかのように後衛戦闘隊司令は作戦概略図に視線
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