第二百三十五話 動かぬ者達その十
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「安土にですか」
「これより向かい」
「あの地を収め」
「そして城を奪うのですか」
「うむ、今しがた殿に言われた」
明智家の重臣の一人が足軽達に述べていた。
「斎藤様、秀満様もご一緒ざじゃった」
「お三方がそう言われるのなら」
「我等もですな」
「これより安土に向かい」
「そのうえで」
「都には僅かな兵を置く」
重臣はこのことも伝えた。
「そして我等はな」
「安土に向かうのですな」
「これより」
「うむ、では飯を食ってじゃ」
そのうえでというのだ。
「進軍じゃ、よいな」
「飯をですか」
「これよりですか」
「うむ、食えとな」
自分の言葉に驚く足軽達にだ、重臣は答えた。
「そう言われた」
「普段の殿ならこうした時は歩きつつ干し飯ですが」
「それを食えと言われますが」
明智はいざとなればそうさせて兵の進みを速くさせるのだ、そうした断が出来るところも彼の用兵の特徴である。
「ここで飯をですか」
「食ってからも」
「そうじゃ、わしも不思議に思ったが」
それでもというのだ。
「しかしな」
「確かにですな」
「殿が仰った」
「そうなのですな」
「確かにな」
そうだというのだ。
「だから食え」
「この都において」
「まずは、ですか」
「飯を食って」
「それから安土ですな」
「そう仰った、では飯を炊くのじゃ」
あらためてだ、足軽達に述べた。
「よいな」
「わかりました」
「ではこれより」
こうしてだった、明智の兵達は本能寺と二条城、そして御所のことを終えてからだった。まずは飯を炊いて食った。ここで人を探すのを完全に止めた。幸村達については。
「逃げた御仁もおられますが」
「真田様、直江様と」
「そうした方々もですか」
「よいのですか」
「構わぬと言われた」
その飯を炊く中でだ、重臣は足軽達に答えた。
「まずはな」
「殿なら追手を向けておられるのでは」
「普段は」
「それが、ですか」
「それはまた面妖な」
「言うな、まずは食え」
飯をというのだ、こう告げてだった。
足軽達には余計なことを考えさせずにだ。明智家の兵達は飯を炊いてから食った。時の流れには構うことなく。
第二百三十五話 完
2015・7・10
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