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真田十勇士
巻ノ二十四 鎌倉その四

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 一行は鎌倉の町を見て回った、そして店に入ると店の親父にこう言われた。
「鎌倉海老でいいのが入ってますよ」
「鎌倉海老?」
「何じゃそれは」
「大きな海老でして」
 こう答えた親父だった。
「これがまた美味いのです、それを刺身でどうでしょうか」
「ふむ、ではな」
 幸村は親父の言葉を受けてすぐに返事を返した。
「それを貰おう」
「それでは」
 こうしてだった、一同はその鎌倉海老を食することとなった。そうしてその鎌倉海老の刺身が入った皿が運ばれてきたが。
 その海老を見てだ、皆こう言った。
「伊勢海老じゃな」
「うむ、伊勢の海老じゃ」
「あの海老ではないか」
「伊勢でも見たが」
「それをか」
「こちらでは鎌倉海老と呼ぶのか」
「おや、伊勢にも行かれたのですか」
 親父もこう一行に返した。
「それは何よりです」
「それで親父」 
 幸村がその親父に顔を向けて言う。
「これはな」
「はい、こちらではその海老をこう呼びます」
「鎌倉海老とか」
「左様です」
「成程な、漁れる場所が違えばな」
「名前もですな」
「そういうことだな」
 幸村は親父の言葉を聞いて納得して頷いた。
「わかった」
「それは何よりです、ただ」
「ただ、じゃあな」
「この海老は負けておりませんぞ」
「伊勢海老にじゃな」
「どうぞお召し上がり下さい、それにです」
 親父は笑ってあるものも出した、それはというと。
「こちらも」
「鮑か」
「そして鯛もありますが」
「何と、鯛もか」
「この鎌倉は海に面していますので」
「海の幸がよいのじゃな」
「はい、如何でしょうか」
 こう言ってだ、幸村に勧めるのだった。
「鮑や鯛も」
「殿、今は銭もあります」
「それも充分にです」
「ですから」
「ここは鮑と鯛も如何でしょうか」
「そうじゃな、今日はな」
 幸村も家臣達の言葉に頷いた、そのうえで言った。
「美味いものを食するとするか」
「ですな、では」
「鮑も鯛もです」
「食しましょうぞ」
「酒も交えて」
「ではな、しかし考えてみれば」
 鮑も鯛も食べることを決めてからだ、幸村はこうも言った。
「我等常に美味きものを食しておるな」
「この道中ですな」
「特に上方に上がってから」
「今までですな」
「うむ、しかしそれも学問のうちか」
 こうも思って言った幸村だった。
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