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大海原でつかまえて
01.岸田の元に来たのは
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 季節は真冬。お正月も終わり、師走の煩雑な日々が終わりを告げ、時の流れが一気にスピードダウンしていくのを肌で感じることの出来る、僕の大好きな季節だ。

 今日は、お昼に秦野と外出していた。今年高校受験を控えた僕は元旦以外は基本的に勉強漬けの冬休みだったのだが……

『先輩。超絶鈍感クソ野郎と言われたくなければたまには外に出ましょう。勉強は明日にしてください』

とかなり強引な手口で誘われたからだ。

 少し前に電話で秦野と話をしたのだが、どうも秦野は初詣をしなかったらしい。僕も初詣に行こうと大晦日の日に岸田を誘ったのだが岸田は誘いに乗ってこず、結局初詣に行かずじまいだったことを話すと、

『じゃあ先輩、私と時期外れの初詣に行きましょう』

と提案され、今まさに神社に来ている。

 秦野と二人でお賽銭を投げ入れ、無作法に鐘を鳴らし、柏手を打つ。その後、神様にお願いごとをして、僕と秦野は社を後にした。

「先輩、何をお願いしたんですか? やっぱり合格祈願ですか?」

 神様へのお願いが済んだ後、いつもよりほんの少しはしゃいでるように見える秦野は、しきりに僕にそう聞いてくる。

「そういうのって人に話したら効果無くなっちゃうんじゃないの?」
「そんなの聞いたことないですよ。何お願いしたんですか?」
「秦野こそ何をお願いしたのさ?」
「私は今年こそ金賞です。先輩とも約束しましたし」

 秦野はそう言って背筋を伸ばし、胸を張る。だが元々背の小さい秦野が背筋を伸ばしたところで、ぼくの胸元辺りまでしかない秦野の背はそこまで代わり映えがしないというのは秘密だ。本人、気にしてるらしいしね。

「で、先輩は?」
「合格祈願。高校受験ってのは、やっぱり大きな壁だからね」
「……やっぱりそうですか」

 これはウソだ。僕のお願いは、これではない。僕のお願いは、こんな僕自身の努力でなんとかなるお願いではない。

――姉ちゃんに会えますように。

 僕のお願いはこれしかない。これしか考えられない。梅雨時、この小さな神社で出会い、僕の隣でお日様のような笑顔を見せてくれていた比叡姉ちゃん。いくら僕が努力をしても、艦これの世界に戻ってしまった姉ちゃんに会うことは叶わない。なら、神様にお願いするしかないじゃないか。僕は今日、生まれて初めて、心から真剣に神様に自分のお願いを祈った。

 神社を後にした僕達二人はその後、街に出てちょっとぶらついた後に帰った。最近出来た評判の和風カフェに行ってみたいと秦野が言い出し、無理やり付き合わされたのだ。和風カフェは本当に江戸時代の茶屋みたいな出で立ちの場所で、客席はひとつひとつが小さな個室のようになっている。ぼくはお抹茶と金つば、秦野は甘酒をホクホク顔で堪能していた。

 散策も終
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