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戦国異伝
第二百三十五話 動かぬ者達その六

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 徳川家の者達は堺から険しい道を進んで駿府に帰っていた、その中で。
 家康は休む時にはだ、干し飯を食いつつ周りに言った。
「堺での馳走よりもな」
「こうした飯の方がですな」
「美味いと」
「わしにとってはな」
 こう言うのだ、その干し飯を食いつつ。
「こうした時に食うと別格じゃ」
「確かに。ほっとします」
「こうした時に腹に入れますと」
「それで、です」
「落ち着きます」
「実にです」
「力も出ます」
 家臣達もこう家康に答える。その干し飯を食いつつ。
「また進もうという気になります」
「駿府まで戻ろうと」
「三河まで戻られれば」
「それで何とかなりますな」
「そうじゃ、寝る間もない」
 今は用心して速く速く進まねばならないからだ。だから寝る時間もないのだ。その間に進まなくてはならないのだ。
「だからそれは仕方がないが」
「しかしですな」
「こうして飯を食う」
「そのことは大事ですな」
「欠かせぬことですな」
「皆の者食うのじゃ」
 強い言葉だった。
「しかとな」
「駿府に戻る力を備える為に」
「その為にも」
「今は食い」
「そうして先に進むのですな」
「そうじゃ、御主もじゃ」
 家康は服部にも言った。
「食うのじゃ」
「はい、それがしも食っております」
 見れば半蔵も食っている、その干し飯を。だがここで。
 家康は彼の飯が少ないのを見てだ、彼に問うた。
「干し飯が少なくないか」
「はい、実は」
「先に食しておったか」
「そうでした」
 こう答えたのである。
「力を備える為に」
「そうであったか」
「一度に食うとです」
「腹が膨れ過ぎてか」
「そうです、動きが鈍くなり頭の動きも鈍くなるので」
 だからだというのだ。
「こうした時は常にです」
「少しずつか」
「腹に入れる様にしています」
「それでか」
「今は少しだけ腹に入れ」
 そしてとだ、服部は家康に話した。
「また後で。時を見てです」
「腹に入れるか」
「そうします」
「そうか、それが忍じゃな」
「そうです」
 まさにそうだとだ、服部は家康に話した。
「そうしています」
「少ないので気になった」
「ですが食していますので」
「ならよいがな」
「はい、それでは」
「頼むぞ、駿府まで」
「それでは」
「三河に入れば何とかなる」
 つまり徳川の領内にというのだ。
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