ほのかな香りと優しい苦味
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「そうそう、英玲奈だ。俺はこの店のマスター、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。生まれも育ちも東京のアフリカ系アメリカ人だ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします、アンドリューさん」
「なんか新鮮だなぁ、その呼ばれ方するのは」
「というと?」
「いやなに、ここに来る連中にはエギルって名の方が通ってるからよ。本名で呼ばれるなんてなぁうちのカミさんぐらいのもんだからな」
確かアンドリュー・ギルバート・ミルズ、という名前のはずだ。愛称にしてはエギルというのは、いささか疑問が残る。
しかし、次のアンドリューの言葉でその疑問はいくつか解消した。
「エギルってなぁ俺がゲーム内で使ってる、いわばハンドルネームってやつでな。ここに来る奴らのほとんどもカミさんとも、ゲームん中で知り合ったんだよ。まぁカミさんも昔はエギルって呼んでたが、結婚してからはお互いに本名で呼ぶようになったな」
「ゲームの中で知り合った方と結婚、ですか」
「おう」
にわかには信じられない話だった。というのも、私自身がそういうものを全く経験したことが無いことが起因しているに他ならない。
確かSNAのゲーム内で親交を深め、実際に会ったりするという話は聞いたことぐらいはあるのだが、それが結婚まで至るというのは、やはりどうも現実離れしているような話に私は思えた。
しかし、想像しがたいという理由に関しては、容易に答えが見つかる。
私自身が人との、他人との距離を縮めるのを得意としていないからだ。
UTXに入学して、ツバサとあんじゅと出会い、A-RISEとして活動を始めた。
そして、ラブライブ優勝という大きな目標を達成した今となっても、やはりまだ心のどこかで彼女らに対しての距離というものを、自分の中で抱えてしまっている。
いつもはそんな思考にはならないのだが、この時だけは何故か、誰かに話を聞いてほしくなった。
「アンドリューさん」
「ん?どうしたよ」
「実は、初対面の方にこういった話をするのは心苦しいのですが……聞いていただけないでしょうか?」
「おう、全然構わねぇぜ。むしろ、こんな可愛い嬢ちゃんに頼られてるんだ。それを無下にしたら男が廃るってもんだ」
思わず笑いがこみ上げる。
きっとこの人の人柄なのだろう、私がこういう気分になれたのも。
珈琲を新しく注文し、それを飲みながら私は、彼に自分が抱えてるものを一つ一つ話す事にした。
「なるほどな」
私が話し終わった後、アンドリューはただ一言だけそう言った。
こういう自分の気持ちを、こんな風に誰かに話したのは初めての事だった。
恥ずかしくもあり、同時になんだか心が軽くなったような気がする。
「お恥ずかしい話を
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