アインクラッド 後編
星降る夜に、何想う
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のか?」
「答えてみたら?」
「やめておく。恐ろしい」
マサキが肩を竦めて答えると、少々小悪魔めいた表情だったエミがくすりと破顔する。
「あ、そうだ、コーヒー飲む?」
「持ってきたのか?」
「ここで淹れるの。そっちの方が美味しいかなって思って。これでも、料理スキルのおかげで結構美味しく淹れられるんだよ?」
そう言いながら、エミはストレージから二つのマグカップとランタン等の機材を取り出し、得意顔で床に並べてみせる。てきぱきとした動作で湯を沸かし、マグカップの上に置いたドリッパーに注ぎいれると、すぐに芳醇な香りが漂ってきた。
「はい、どうぞ」
手渡された金属製のマグカップを受け取って、一口。まろやかな苦味と一緒に、じんわりとした温かさが身体中に染みていくのを感じた。装備品のおかげで暑さ、寒さにはかなりの耐性を得ているマサキだが、だからといって体感温度が全く変化しないというわけではない。また、このフロアは平均気温が低めに設定されていることもあって、六月といえど温かいものは素直にありがたかった。
「どう? お味は」
「ああ、十分だ」
「良かった」
ほっとしたように笑い、自分もカップに口をつけるエミ。その横顔を、ランタンのオレンジ色の光が穏やかに照らす。
「そういえば、マサキ君は料理スキル取ってるわけじゃないんでしょ? あんなに美味しいコーヒー、どうやって淹れたの?」
それからしばらく二人は無言でマグカップを傾けていたが、カップに入ったコーヒーの殆どを飲み干した頃、エミが白い息を吐きながら訊いてきた。マサキはちょうど口に含んでいた分を飲み下してから答える。
「あれは俺が淹れてるんじゃない。あの味のコーヒーが出てくるポットを持ってるだけだ」
「そうなんだ?」
エミは驚いた声で言った。マサキが頷く。
彼女は左手だけで持っていたマグカップに右手を添え、視線を落とした状態で何かを考えるように動かなくなった。二人の間を沈黙がしんしんと流れていく。
「……でも、あの時のコーヒーがあんなに美味しかったのは……やっぱり、マサキ君が淹れてくれたからだと思うな」
やがて、エミが胸元に抱くように持ったマグカップを見つめたまま、ぽつりと呟いた。「何を馬鹿な」とマサキが言いかけるが、直前で踏み止まる。
まるで我が子を抱き締めているかのような柔らかな優しさが、彼女の横顔と、どこか遠くを見るようにほんの僅か細められた目元にランタンの光で揺らめいていて。今の彼女にそれを言うのは何となくはばかられるような気がして、マサキは仕方なく、喉奥で止めていた言葉を白く塗りつぶして吐き出した。
暫し、不思議な時間がマサキたちを包んでいた。お互いに言葉はなく、しかし重苦しい居たたまれなさがあるわ
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