9部分:第九章
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第九章
「ここで逃げても何にもならないぞ」
「けれど打たれるよりましなんじゃないか?」
こうした意見も出された。
「それよりはな」
「それはそうだけれどな」
これは確かに一理あった。
「けれどな。ここで四球を出したら」
「満塁か」
「ピンチを先送りしただけだ」
そうでしかないのも明らかだった。
「それは何にもならない」
「確かにな」
「それはな」
皆このこともわかっていた。
「けれど。ここで四球も」
「仕方ないか」
「あのバッターには打たれている」
まずこの前提があった。
「それで今勝負に出ても」
「打たれるだけか」
「だからな」
こう話されるのだった。
「ここで四球にしても」
「仕方ないか」
「しかし妙だな」
だがこんな言葉も出て来た。
「妙!?」
「四球ならわざと外さないか?」
こう言われるのだった。
「それなら。変化球なんか投げずに」
「んっ!?そういえば」
「確かに」
皆その言葉に気付いた。
「そうだよな。ここで変化球なんて」
「投げないな」
考えてみればその通りだった。
「下手に体力使うよりな」
「軽くストレートでな」
「どういうことなんだ?」
やはり考えてみれば妙であった。
「ここで変化球なんて」
「何かあるのか?」
「あのボールに」
「確かに球威はない」
これは見ればすぐにわかることだった。
「それにスピードも」
「間違いなく変化球のものだな」
「ああ」
これもまた見ればわかることだった。
「何だ?それなら」
「何か考えがあるのか」
「近藤に」
「若しかしたらな」
また誰かが言った。
「けれどそれが何かは」
「わからないか」
「何のボールだ?」
いぶかしむ声がまた出て来た。
「あのボールは。一体」
「何だ?」
皆ボールを見つついぶかしむ。一瞬の筈が永遠に感じられる中で。そしてその中で投げられた一三の最後のボールは。バッターの手元で変化したのだった。それは。
「なっ!?」
「まさか」
皆そのボールを見て驚きの声をあげた。
そのボールは右から左に、バッターから見て外に逃げるボールだった。つまりは。
「シュート!?」
「間違いない」
そのボールの動きは明らかにシュートだった。スライダーと反対側に曲がるそれだった。
「まさか。あいつあんなボールも」
「持ってたのか」
誰もがこれには驚かされた。
そしてそれはバッターも同じだった。
これは予想しておらず思わず身体が泳いでしまった。こうなっては終わりだった。
バットは空しく空を切りそれで終わりだった。この瞬間に全てが終わった。
「ストラーーーク、バッターーーアウト!」
審判のジャッジがグラウンドに響き渡る
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