暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第210話 救えた命
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て、菊岡は続けた。

「……しかし、そういう境遇でも 兄弟仲は悪くなかったようだ。昌一は高校を中退してからは精神の慰撫をネットワークの中、ことにMMORPGに求め、その趣味はすぐに弟にも伝播した。やがて、兄は《ソードアート・オンライン》の虜囚となり、2年の間、父親の病院で昏睡するのだが、生還してからは、彼は恭二にとってはある種の偶像、……英雄化と言っていいのかな。そういう存在になったようだ」

 隼人は、その先の言葉は大体理解出来た様だ。昌一の正体を知っているからこそ、結論に至った。……その考えとほとんど変わらない答えが菊岡から返ってきた。

「昌一は、生還後暫くはSAO時代のことには一切触れなかった様だが、リハビリが終了し、自宅に戻ってから、恭二にだけ語ったそうだ。……自分が如何にあの世界で多くのプレイヤーをその手に掛けたか。真の殺戮者として恐れられたか……と言う事をね。その頃昌一の話は嫌悪ではなく、解放感、爽快感をもたらすものだったようだね」
「……あの」

 詩乃が小さな声を出すと、菊岡は顔を上げて続きを促す様に軽く首を傾けた。

「そういう事は……新川くん、言え 恭二くんが話したんですか?」
「いや、これらは兄の供述に基づく話です。昌一は警察の取り調べでは、訊かれたことには全て応えるらしい。弟の心情の推測も含めて、ね。しかし恭二の方は対照的に、完全な黙秘を続けている」
「……そうですか」

 恭二の魂がどのような地平を彷徨っているのかは、詩乃にはもう想像のしようがない。そんな訳はないのだが、今GGOにログインしてみたら、待ち合わせ場所に使っていた酒場の隅にはちゃんとシュピーゲルがいるのではないか……、と言う気すらするのだ。

「……彼は もう オレの問いに答えられる精神状態ではなかった、と言う事か」

 隼人は、あの日の夜の事を思い返しながらそう呟いていた。

 詩乃に手をかける理由が本当に理解出来なかったからだ。本当に好きな相手であれば、守る者であり、間違ってもその逆は有り得なかったから。 だが、あの場所で既に恭二の精神は ある意味ではもうあの場所にはおらず、そして 仕様がないのかもしれない。恭二の精神が 通常ではない。異常であったのなら……。

「まあ、そうだね。彼には現実と言うものが無かった、と言っていいのかもしれなかったから」
「え……、それはどういう事ですか……?」

 菊岡の言葉を訊いて、詩乃は首をかしげた。恭二とはシュピーゲルとして以外ででも、現実で何度も合っている。……様々なプレッシャーが掛かり続けている事を知らなかった。だが、それを踏まえても、《現実が無かった》と言う言葉の真意を知りたかったのだ。

「そうだね。……新川兄弟にとっての《|後戻り不可能地点《ポイント・オブ・ノーリ
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