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ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第210話 救えた命
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稚園の制服らしいブラウスの上から、かけたポシェットに手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。
それは、四つ折りにした画用紙。
そこには、クレヨンで描いたと思しき絵が広がっていた。中央に髪の長い女性。ニコニコと笑う女性はきっと母親。そして、右隣は三つ編みの女の子。自分自身。……そして 左隣には眼鏡をかけた父親だろう。
そして、何よりも眩しく見えたのは、一番植えに、覚えたばかりなのであろう平仮名で
《しのおねえさんへ》
と記されている。
瑞恵が差し出すその絵を、詩乃もしっかりと両手を伸ばして受け取った。それを確認した所で、瑞恵は大きく息を吸い込むと、一生懸命に練習してきたらしい、たどたどしい声で、一音一音、はっきりと言った。
「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」
その言葉が……詩乃にとっての引き金だった。
視界の全てが、虹色の光に満たされ、そしてにじみ、ぼやけた。
それが、自分自身の涙だったのに、気づくのには時間がかかった。
後悔で涙を流してしまう事はあった。……隼人が自分の為に怪我をし、ベッドで眠っている時だ。だけど、こんなに、こんなに 優しく、清らかで、何もかも洗い流してくれるような涙があるなんて……。
幼き少女が自分にくれた光。……心の形。
そこに涙の雫が落ち……滲んでいく。止まらない涙。
幼き少女はもう1つ……自分に贈り物をしてくれた。
まだ、火薬の微粒子によって作られた黒子が残る、まさにその場所を――小さな柔らかい手が、最初はおそるおそる、しかし、すぐにしっかりと握ってくれた。
温もりに、違いは沢山あるだろう。
過去の闇を 打ち消してくれる温もり。
そして……罪を、罪を赦してくれる様な、温もり
過去の全てを受け入れられるようになるのには、まだまだ、長い時間がかかるだろう。……だけど、私は、わたしが今あるこの世界が、好きだ。
一度、離そうとした。……でも、そんな事はもうしない。全てを抱きしめて、生きていく。
生きることは苦しく、伸びる道は果てしなく険しい。
それでも歩き続ける事はできる。……その確信がある。
だって、彼に抱きしめられた温もりも、この幼き少女に繋がれた右手の温もりも、……この頬に伝うまた違う種類の涙も、こんなにも温かく、全てを包んでくれるのだから。
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